新型コロナのPCR検査は「感度が低い」、すなわち「陽性者の見逃しが多い」ことで知られています。最近は「感度90%以上」というものも出ていますが、感度が上がった=陽性・陰性を正確に判定できるようになったというわけではありません。「検査絶対主義」に陥りがちな日本人に、現役医師が「医学常識の嘘」を明かします。※本記事は、岩田健太郎氏の著書『僕が「PCR」原理主義に反対する理由』(集英社インターナショナル、2020年12月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。

正確な診断には「患者さんの話をよく聞くこと」が必須

さてそれでは、検査結果という不確かなものに対して、医者はどう向き合えばいいのでしょうか。

 

結論から書きます。最も大切なのは「医者が患者さんの話をよく聞くこと」です。

 

たとえば、目の前にいる患者さんは微熱が2日続いているとします。軽い咳(せき)も2日前から続いているとしましょう。それだけのデータでは、その患者さんが新型コロナに感染しているかどうかは熟練の医者でも判断できません。といって、それをただの風邪と断定することもできません。

 

だから愚直、丁寧に患者さんの話をよく聞くのです。

 

その人が住んでいる地域に新型コロナの流行は起きているのかどうか。その人はクラスターが発生した場所に行ったことがあるのかどうか。クラスターが発生した場所にいた人と濃厚接触したことがあるのかどうか。いわゆる「3密」が発生する場所に最近行ったのかどうか。そういうことを根ほり葉ほり聞くわけです。

医師に求められるのは「人間に対する洞察力」

なおかつ「この人は噓(うそ)をついているかもしれない」ということを常に疑います。

 

たとえば「あなたは最近キャバクラに行きましたか」と聞いたとき、「そんなところには生まれてこのかた1度も行ったことがない」という答えが返ってきたとしても、ただちに信じたりはしないわけです。その言葉が噓かもしれないという前提で細かい質問をさまざまに重ねて、真実につながるヒントを探します。たとえば、「い、い、いえ、キャバクラなんて、そんなところ…い、い、行っていません!」みたいな口調とか。

 

これは他の感染症の診察でも同じで、たとえばHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染が疑われる人には、日常的な会話ではしないような質問を山のようにぶつけます。医者とは実に因果な稼業なのです。

 

あなたは最近性交渉をしましたか。性交渉をした相手は男ですか、女ですか。そのときにコンドームをつけましたか。そのときに肛門性交はしましたか。肛門性交では受ける側でしたか、挿入する側でしたか。

 

そんなふうに詳細に聞くのです。聞き取りは、場合によっては数十分にも及びます。微に入り細を穿って相手を知る努力を重ねないと、診断も治療もできないからです。

 

ましてやHIVの場合、パートナーがいるのであれば、その人もかならず診察室に来てもらわないとなりません。彼/彼女が感染している可能性はもちろん、その彼/彼女には別のパートナーがいるかもしれないから、事は重大です。

 

医者という仕事は、人間に対する洞察力がないとできない仕事です。それは感染症の医者にかぎった話ではありません。

 

たとえば糖尿病の医者なら、患者さんの食生活を把握しなければいけません。精神科の医者なら、患者さんの人間関係や職場環境、家庭環境をできるかぎり把握しなければいけない。あるいは心臓の医者だったら、「その患者さんはなぜ心臓に悪いと知っていながら、タバコがやめられないか」ということも知っておく必要があります。

 

検査をして、薬を出す。それだけで事が済むのであれば、医者なんて楽な仕事です。そんなことは、いずれAIが全部やってくれるようになるでしょう。

 

 

岩田 健太郎

神戸大学病院感染症内科 教授 

 

 

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