こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

英語もフランス語もあるのに日本語がない理由

多くの人たちは中国語を調べるためにこの辞典を使うでしょうが、それ以外の使い方もできます。たとえば、台湾では「ピンイン」という中国語を学ぶための発音記号が何種類かありますが、「萌字」ではそれらをすべて同時に表示することができます。また、台湾で広く使われている「注音(ちゅういん)」も表示できます。どれも少しずつ改良されてきたもので、台湾語を学ぶ人たちに最適化されています。

 

また、地域によって異なる数種類の方言の発音なども聞くことができます。たとえば、「発芽」という単語を客家語で調べる場合、地方によりそれぞれ言い方が異なります。諺も発音が聞けますし、アミ語の発音を聞くこともできます。アミ語を打ち込めば、アミ語の語尾変化も学ぶことができるようになっています。

 

このように、あらゆる言語を検索できる画面から、ピンインや注音、あるいは部首からも検索でき、画数からも検索できます。そういう意味では、全方位に対応した辞典になっていると言えるでしょう。

 

「萌典」は、たくさんの人たちとともに制作されたものですが、プロジェクトは2013年に始まり、現在も続いています。発音は誰かが直接録音したものや、機械による合成音声もあり、もともと教育部が所有していた音声もありました。

 

この辞典は無料で使うことができますし、私は著作権も放棄しています。「作者の唐鳳は法律が許可する範囲内における権利を放棄した。この権利には、あらゆる関連かつ隣接する法律的権利を含み、公衆のために利用できるものとする」と書いてあるように、誰もが「私が作ったんだよ」と言っていいし、加筆修正する場合も私に尋ねる必要はないのです。何事もオープンにしていますので、誰もが修正することができます。そのため、「ここまでやれば完成」というものはありません。

 

この「萌典」には、残念ながら日本語は入っていません。それには理由があり、この辞典は著作権が放棄されたソースに頼っているからです。フランス語、ドイツ語、英語では、こうしたオープンソースでの辞典プロジェクトがあり、著作権が放棄された辞典が利用できました。ただ、日本語辞典に関しては、まだ著作権が放棄されたソースを探し出せていません。著作権が放棄されたものでなければ利用できませんので、もしそうしたソースがあれば、ぜひ教えていただきたいと思います。

 

ところで、「萌典」という名称が気になった人がいるかもしれません。そもそも私たちは台湾の教育部が作っていた中国語辞典を基礎にしています。教育部は英語でMinistry of Education ですから、略称は「MOE」です。そのMOEに日本語の「萌え」という単語を絡めました。日本語は入っていませんが、少しは関係があるとも言えます。また中国語では「萌」という文字は「萌芽」と使われるように、「これから新しいことが始まる」という意味があります。これらが重なって「萌典」という名称が生まれたのです。

 

先に言及したように、当初は教育部が作っていたネット上の国語辞典をスマートフォンでも使えるようにしようというのが、プロジェクトの始まりでした。このアイデアを出した葉平という友人は、アメリカ在住です。彼はこのアイデアを出してから、みんなと共同で、どのようなステップで作り上げていくかと案を練っていきました。

 

台湾とアメリカは時差があるので、彼が寝ている間に台湾では作業が進み、台湾の作業が終わった頃には彼が起きてきて作業を引き継ぐ方法で進めていきました。こんなふうに、まるで友人同士があれやこれや話し合うようにして作り上げてきたのが、この辞典です。

 

私はデジタルに必要な三つの素養を「自発性」「相互理解」「共好」と言いましたが、まさにその三つが合わさるようにしてできあがったのが「萌典」なのです。

 

 

 

 

オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

 

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