NHK連続小説『おちょやん』で杉咲花さん演じる主人公、浪花千栄子はどんな人物だったのか。女優復帰を果たした千栄子は映画や舞台への出演依頼も相次ぐようになる。小津安二郎監督の『彼岸花』、黒澤明監督の『蜘蛛の巣城』、内田吐夢監督の『宮本武蔵』等々、日本を代表する巨匠たちの作品に出演者として名を連ね、映画に欠かせない存在となっていく。この連載を読めば朝ドラ『おちょやん』が10倍楽しくなること間違いなし。本連載は青山誠著『浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優』(角川文庫)から一部抜粋し、再編集したものです。

装飾や什器類の柄はすべて竹をあしらった

何としても手に入れたいと人脈を駆使する。知人に紹介された天龍寺管長に、もう一度地主の説得をしてもらうことにした。

 

相手が管長とあっては、地主も嫌とは言えなかったようである。土地を売ることを了承した。ただし、売値は50万円。貯金を全額はたいても足りなかったが、ここでもまた管長が助け舟を出して、不足分を貸してくれた。

 

彼は『アチャコ青春手帖』の大ファンだという。そのため最初から千栄子に好意的で、この他にも保証人になるなど、様々な便宜を図ってくれた。

 

そのおかけで、この後は建設計画がトントン拍子に進む。

 

「やっぱり、縁のある場所だったのやろか」

 

自分は何かに呼び寄せられてここに来た。そんな気にもなり、なおさら土地に愛着がわいてくる。

 

昭和28年(1953)の秋には建設工事がはじまった。

 

貯金は土地購入で使い果たし、建設費のほうは分割払いにしてもらうことに。お金のほうは心配ない。この年の8月には『祇園囃子』でブルーリボン助演女優賞を受賞したのだが、その効果もあり、各映画会社から出演依頼が殺到している。

 

さらに忙しくなった千栄子だが、それでも仕事の合間を見つけて建設現場には頻繁に足を運んだ。

 

しだいに形になってゆく建物を眺めていると心が躍る。今日の仕事の報酬が家の柱や壁になり、自分の城を造りあげてゆく。そう思えば、仕事へのやり甲斐がさらに高まる。

 

ついに、昭和31(1956)の春に建築工事は完了した。石垣に囲まれた門をくぐり抜けて敷地に入ると、竹林の間に通された石畳の小路がある。小路は母屋へと続いていた。母屋の裏手には小倉山を借景とした自慢の庭園があり、庭の中には裏千家の宗匠に監修してもらったという、自慢の茶室「双竹庵」も建てられている。

 

館内の装飾や什器類の柄はすべて、竹をあしらったものにしてある。

 

幼い頃の千栄子は、嫌なことがあると、すぐに実家の裏にある竹林に隠れたという。仲の悪い継母がいる家のなかは居心地が悪い。昼間も薄暗くて姿を隠すにはもってこいの竹林は、最も安心して過ごせる場所だった。

 

あの頃の記憶は鮮明に残っており、いまも竹を見ると気持ちが和む。せっかく自分の家を建てるのだから、好きなものに囲まれて暮らしたかった。

 

青山 誠
作家

 

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