遺言書は無事見つかったが、問題は…
公正証書遺言は原本を請求することはできませんが、法定相続人なら謄本を請求することができます。その際に必要な書類は、以下の通りです。奥様はそれらの種類を用意し、すぐに公正役場へ赴きました。
*****************************************
◎遺言者本人の除籍謄本(除籍全部事項証明書)・死亡診断書等
※除籍謄本とは、結婚、離婚、死亡、転籍(本籍地変更)等により、その戸籍に記載される人がいなくなった状態の戸籍を、行政に発行してもらう書面のことです。
◎除籍謄本に請求者の名前の記載がない場合は請求者の戸籍謄本
◎請求者の実印・印鑑証明書・身分証明書等
*****************************************
ご主人の公正証書遺言には、奥様への相続財産が具体的な金額とともに書かれていました。ご夫婦で住宅ローンを完済し、1/2ずつ所有権登記してある自宅のご主人所有分、奥様が受取人となっている生命保険の死亡保険金、主要取引銀行の預貯金などです。
そして、あの義弟にも300万円の預貯金を相続させるということが、最後に記されていました。「やっぱり夫は、義弟の存在を知っていた。そして、自分の相続が発生したら、知人などを通じてあの義弟が来るのを予測して、これを書いたのだ」と、奥様は思いました。
あとは、義弟が300万円という相続配分に満足するかどうかです。万が一、彼が法定相続分を主張してきたら、この遺産分割協議は長引きます。奥様は、覚悟を決めました。
ところが、意外にも、義弟はあっさりと遺言書の内容を受け入れました。もしかしたら、彼自身も、ほとんど面識のない義兄から遺産分与してもらえるなんて思わなかったのかもしれませんし、長年、非摘出子として生きてきた自分の存在をアピールしたかっただけかもしれません。あるいは、何かの事情で、300万円程の現金が必要だったのかも…。
理由はともかくとして、奥様はホッと胸を撫で下ろされました。その後、遺産分割協議書の作成も無事終わり、弁護士から当税理士事務所へとバトンタッチされました。現在、相続税の申告手続きを行っているところです。
「あの遺言書は、夫からの最後のラブレター」と、奥様はおっしゃいます。相続税の申告・納税が無事終了したら、ようやく奥様にも、ご主人との思い出を振り返りながら、思う存分、涙を流す時間が訪れることでしょう。
岡野雄志
岡野雄志税理士事務所
【関連記事】
税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
恐ろしい…銀行が「100万円を定期預金しませんか」と言うワケ
親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】