トヨタの保全マンの仕事は故障した機械を修理することだけではない。直したうえで、その後も故障が出ないような予防保全を目指している。壊れる前に壊れないようにする保全は、他社ではあまり行われていないという。日頃から行われる海外工場の支援でも、予防保全の仕方が指導されている。人材育成の教育や、保全の力を維持するための勉強も欠かさない保全マンの仕事ぶりに迫る。本連載は野地秩嘉著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

「壊れる前に直す」…上郷工場「保全マン」の日常

わたしは実際に保全マンに会って仕事について、話を聞いた。

 

興味深いことに、保全マンに取材を申し込んだのはトヨタの歴史始まって以来、わたしが(ほぼ)初めてだという。彼らは社内報に出ることはあったが、外部メディアには出たことがない。まったくの縁の下の力持ち(これも古い)なのである。

 

さて、上郷工場は1965年に稼働を始めた。日本初のエンジン専門工場で、鋳造から機械加工、組み付けまで一貫して生産している。

 

工場の従業員数は、約3000人、そのうち保全マンは約280人。トヨタのなかでも保全の人数が多い工場で、業界平均よりも3割は多い。

 

保全は機械設備課という名称になっており、八つのセクションに分かれている。担当する設備の台数はトータルで3700台である。仕事は3交代で24時間勤務。休みの日以外、保全マンは必ず生産現場にいる。

 

ひとりの男がわたしに近づいてきて、挨拶をした。取材に慣れていない様子である。

 

「こんにちは。私は機械設備課の副課長をしております高橋洋一です。現場の保全をやって37年間。ずっと保全一筋でやってきました」

 

高橋は再び最敬礼した後、わたしが返礼するのを待たず、マイクを持ち、ソーシャルディスタンスを保ちながら、一方的にしゃべり始めた。

 

「世間のみなさんがお持ちの保全のイメージとは、機械が壊れたら直す、復帰させるといったことだと思われますが、しかしですね……」

 

そうか。それだけではないのだなと受け取ったら、高橋はまじめな顔で続けた。

 

「私たちもまったくその通りだと思っております。当然、そういったことを行っておりますから」……。

 

「ですが、1秒でも早く復帰させて、とにかく同じ故障が起きないよう、再発防止をするわけです。なんといっても私たちが目指しているのは、壊れる前に直すこと。そのために製造、技術とタッグを組み、日々、自主保全活動を行っております」

 

故障を早く直すこと、壊れる前に機械の調子を見るにはプロの目と経験が必要だ。彼らはさまざまな技能検定に挑んで、資格を取る。そうすれば知識とスキルが増える。

 

保全マンは機械が壊れるまで休憩室でカフェラテを飲んで待機しているわけではない。保全マンの1日に休息はない。順調に設備、機械が稼働している間は、予防保全・定期保全の準備や壊れない設備にする改善も進める。また、人材育成の教育や自学・自習も怠らない。

 

 

 

野地秩嘉
ノンフィクション作家

 

 

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

野地 秩嘉

プレジデント社

コロナ禍でもトヨタが「最速復活」できた理由とは? 新型コロナの蔓延で自動車産業も大きな打撃を受けた―。 ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字となる中、トヨタは当然のように1588億円の黒字を達成。 しかも、2021…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧