近年、認知症になる高齢者の数が増えており、事前に相続対策をする必要性が高まっています。その解決方法の一つが「家族信託」で、この制度を活用することで柔軟な財産管理が可能になります。今回は、家族信託を使って不動産を円滑に相続する2つの事例を紹介します。※本連載は、宮田浩志氏の著書『相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本』(近代セールス社)より一部を抜粋・再編集したものです。

子に不動産を平等に相続させたいが、共有は避けたい

Q. 林父郎(75歳)は、東京23区内にアパート1棟(収益物件)を所有しています。将来は子供3人(太郎・二郎・三郎)に平等に相続させたいと考えていますが、子供の1人に当該不動産を単独相続させるには、それに見合うだけの代償資産がありません。

また父郎は、しばらくの間アパートの売却処分や不動産を分割(土地の分筆や建物の区分所有権化)することについても望んでいません。

なお、当該アパートの管理は、太郎に任せたいが、あと10年もすれば、老朽化に伴う建替え等の問題が出てくるので、将来の管理・処分方針については、太郎・二郎・三郎の家族間でもめないようにしたいと切望しています。

 

<解決策>

林父郎は、現時点で長男太郎との間で当該アパート(土地・建物)を信託財産とする信託契約を締結します。その内容は、受託者を太郎、受益者を父郎自身とし、父郎の亡き後、第二受益者を太郎・二郎・三郎の3人(受益権は各3分の1)にします。父郎は、将来的には太郎の独自の判断で当該アパートを建て替え、または換価処分できるように信託契約に規定しておきます。

 

【信託設計】

委託者:林父郎
受託者:林太郎(予備的に太郎の妻・太郎の子を順に指定)
受益者:①林父郎②林太郎・林二郎・林三郎(受益権割合各3分の1)③太郎・二郎・三郎の直系卑属たる法定相続人
信託財産:賃貸アパート・現金
信託期間:無期限(受益者および受託者の合意で終了)
残余財産の帰属先指定:信託終了時の受益者

 

<要点解説>

信託契約の発効により、父郎の生前は認知症対策として、あるいは準備期間として太郎に財産管理を任せ、その働き具合を見て太郎に受託者として財産管理の将来を託せるかを見極めるようにします。

 

父郎が亡くなった後は、所有権で共有にさせるのではなく、第二受益者として子供3人に受益権を準共有させることで、資産承継においては所有権の共有と同様の効果(平等相続)を実現できます。太郎・二郎・三郎のうち、二郎と三郎は、賃料収入の配当を得ることができますが、太郎の管理方針や修繕・建替え・売却処分等の判断については口を出すことができません。

 

太郎は適切なアパート管理によって収益を得て、二郎および三郎に対しきちんと利益配当を行いさえすれば、アパートの管理・処分方針を巡る無用なモメごとに巻き込まれたり、不動産が塩漬けになることを防げます。

 

なお、将来の信託終了時に不動産が共有になるとすれば、結局、問題の先送りに過ぎなくなってしまうので、いずれアパートを換価処分して分配することや、将来的に太郎が二郎・三郎側の受益権を買い取るなどして、不動産の共有状態が解消された段階で信託を合意解約することを想定しています。

 

つまり状況によっては、父郎からみると孫の代まで信託が続くことも想定した設計をすることになります。

 

宮田浩志

宮田総合法務事務所代表

 

※本記事の事例に登場する名前はすべて仮名で、個人が特定されないよう内容に一部変更を加えております。

 

 

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