
宗吉敏彦はリーマンショックに巻き込まれ650億円の負債を抱えて倒産。いったん経済の表舞台から姿を消した。リーマンショックで地獄に堕ちた男はアジアで再起のチャンスをいかに掴んだのか。宗吉とともに躍進するアジア不動産市場の潜在力と今後の可能性を探る。本連載は前野雅弥、富山篤著『アジア不動産で大逆転「クリードの奇跡」』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。
カンボジア「経済成長率7%」の実力とは
カンボジアの経済成長率は極めて高い。2015年が7.7%、2016年と2017年はいずれも7.0%。カンボジア経済の成長のエンジンは人口増だ。2014~2016年の人口の平均増加率は1.6%でアジアの中でもトップレベル。この経済成長著しいカンボジアでもクリードはがビッグプロジェクトに挑んでいる。
759戸の戸建てが完成前に完売
タンソンニャット国際空港から北に2キロメートル進むと、すっと景色が変わる。目に飛び込んでくるのは大きな池。そのほとりにクリードが手がける巨大開発プロジェクトがある。「ボレイ・マハ・センソック・プロジェクト」——。11万4000平方メートルの土地に759戸の戸建て住宅が並ぶ。大半が隣家と壁を共有する中間層向けの「長屋づくり」だ。
連棟式の住戸がこれだけ集まる風景はまず日本にはない。しかも平均的な建物が1.5階建て。1階部分(60平方メートル)が大きく、2階部分には1階部分より一回り小さいメザニン(中2階、40平方メートル)が載る。購入費用は安くて1戸あたり5万~6万ドル(約550万円~660万円)だ。

日本ではなかなか馴染みがないが、これがカンボジアの中流階級の住戸の一般的な姿だ。2階部分の拡張やその上の階の積み増しは、住宅の購入者が家族構成の変化などに合わせ好きなタイミングで自由に計画できる。
1.5階建てにとどめる分、購入時の費用は安い。住宅購入者が近所の顔見知りの工務店に頼めば「デベロッパーが最初から造ったものを買うよりも増築部分は3割程度、安くすむ」(江口)。
もちろんこだわりの増築となればその限りではない。材料やデザイン面で凝りに凝った増築をしてしまうと、いくらデベロッパーを通さないからといっても高くつく。
「実はこういうケースは少なくない」(江口)
ただ、重要になるのは建物の強度だ。デベロッパーに頼むにしても自分で増築するにしても、上層階を載せるなら、土台となる1.5階分の建物部分はあらかじめ強度を上げておかなければならない。上積み分の重さを想定、これに耐えられる構造設計にしておくことは必須だ。
ところがカンボジアではここのところの考え方が甘い。地震が少ないせいか「基礎工事が雑なケースも多い。家を買ってまもなく外構のタイルが割れてしまうようなこともある」(江口)という。カンボジアだからといって、許されることではない。
しかしクリードの場合はここで手を抜かない。構造計算を正確に行い、基礎工事を徹底、役所からは2.5階建ての建築物として許認可をとる。これで引き渡した後も購入者は1階分、上積みすることが可能だ。
建物を引き渡した後もそれで終わりにはしない。管理をする会社向けにガイドラインを設定、住宅購入者が定められた以上に後から上積みする違法建築を許さないよう教育する。
こうして造った住戸は1戸あたり5万~6万ドル(約550万~660万円)。2015年3月に取得した土地に2018年までに開発を計画していた合計759戸が完成したが、このすべてが完成までに売れてしまった。
「これが経済成長率7%の実力か……」と宗吉。中間層を狙う戦略がピタリ的中した格好だ。予想を上回る好調ぶりに「こんなことならもっと周辺の土地を買っておけばよかった」。このプロジェクトも結局、途中から売るものがなくなってしまい、周囲の地価ばかりが上がっていったのである。