「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母親が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。日本の高齢化は進み、高齢者と後期高齢者という家族構成が珍しくなくなってきた。老いと死、そして生きることを考えていきます。本連載は松原惇子著は『母の老い方観察記録』(海竜社)を抜粋し、再編集したものです。

老いるというのは、ひとつずつ上手に諦めること

当たり前のことだが、年を取ると自分でできないことが多くなり、若い人の助けが必要になる。

 

二人はまったくしゃべらない。おそらく、会話がないのは、友達同士ではなく姉妹だからだろう。

 

わたしが炭酸水風呂からジャグジーに移り、ふと中庭に目をやると、あの姉妹が露天風呂から出ようとしているのが見えた。今度は、湯船から上がることができずに、二人は立ち往生している。湯船に人がいるのに誰も手を貸さない。

 

「危ない!」

 

わたしは、とっさに従業員を探しに走った。運よく体格のいい従業員のおばちゃんが近くにいたからよかったが、もし、若い従業員だったら、どうしただろうか。

 

できなくなる前にやる

 

老姉妹の姿を見ていて思った。いくら好きでも、年をとれば、諦めなくてはならないものがある、と。

 

うちの妖怪は、いい意味で諦めない人だ。膝が痛かろうが、1時間かけて銀座までお寿司を食べに行くし、美容院もタレントではないのに月1のペースでヘアカラーに表参道まで行く。わたしの行きつけの美容院では有名人だが、92歳のスカスカ頭をいじるスタイリストも大変だと思う。

 

「お母さんはスゴいわ。うちのサロンの最高齢ですよ。オシャレで元気ですばらしい」

 

とスタイリストは絶賛するが、真に受けていたら恥をかく。

 

老いるというのは、ひとつずつ上手に諦めることだとわたしは思う。いい意味で謙虚になるのが大事なような気がする。だからこそ、まだ若いわたしたちは今、できることは、惜しみなくやるべきだ。いつかやれなくなるときを憂うのではなく、今やれることを精いっぱいやって人生を謳歌する。

 

というわけで、わたしは年末に、女友達と2人で、パリオペラ座に最高のバレエを観に行くことにした。行けるときに行く。行きたいときに行く。楽しみをあと回しにしない生き方を、わたしは目指すつもりだ。しかし、こういうときは、妖怪がいるので、つれ猫グレの世話を気にすることなく、旅に行けるので助かる。

 

 

 

 

松原 惇子
作家
NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク 代表理事

 

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