阪神大震災で判明!生産ラインの復旧が必要なのはトヨタだった

トヨタの部品の在庫はほとんどなかった

このふたつの原則は今もちゃんとあります。危機の際の原則は現場で体験したことから生まれてくるんですね。

 

ただ、その時、気づいたことがあります。部品倉庫のなかには他社の在庫は結構、残っていました。金型を持っていかなくたって、1か月くらいは何とかなる量でした。

 

一方、トヨタはリーンな体制でやっているから、住友電工の部品倉庫にはウチの在庫はほとんどなかった。いちばん部品が欲しかったのは僕らなんですよ。だから僕らは必死になって協力会社の生産ラインを復旧させるわけです。そうしないと部品が止まってしまう。

 

10日ほどしたら、いよいよ部品の在庫がなくなってきて、倉庫のなかへ金型を取りに行かなきゃならなくなった。だが、工場長が立ち入り禁止にしているから、無断で入って取ってくるわけにいかない。

 

でも、倉庫の床を直すまでは待てない。だいたい、災害の後はどこも建物が壊れているから、大工さんを呼んでも来てくれない。

 

南八さんと相談したら、「友山、床は抜けそうだけど、体の軽いやつなら何とかなるんじゃないか」と、なぜか僕をじっと見るんですよ。確かに、ひとりが入る分には大丈夫じゃないかと思えた。

 

すると、南八さんは工場長に呼びかけたんです。

 

「工場長、型を取りに行こう」

 

工場長は首を振って、「ダメです。絶対、ダメです。危ないからやめてください」…。しかし、南八さんはあきらめない。

 

「工場長、わかった。おたくの人間にケガはさせられない。うちの人間に体の軽いのがいるから、そいつを行かせます。体に縄をつけて入らせればいい。何かあったら、みんなで引っ張るから」

 

そう言いながら、南八さんはまた僕の方を見る。僕はもう、言葉もないですよ。

 

「え、オレ? オレが縄を巻いて入るの?」

 

南八さんを見たら、視線を合わせてくる。横にいた工場長がさすがに「待ってください」と言いました。

 

「いや、トヨタさんにそこまでさせるわけにいきません。私が全責任を持ってうちの社員を行かせます」

 

そうして、縄は付けずに、まず体の軽そうな人がひとりで、そろそろと入っていった。何ともないわけです。無事、金型を取ってきた。

 

次はふたりが入った。見た目より床は丈夫で、崩落しなかった。それからはもうみんなでダーッと入っていって金型をバケツリレーで全部取ってきた。

 

いやあ、あの時は肝を冷やしました。

 

野地秩嘉
ノンフィクション作家

ノンフィクション作家

1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、ビジネス、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。

『TOKYO オリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。

『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『企画書は1行』『なぜ、人は「餃子の王将」の行列に並ぶのか?』『高倉健インタヴューズ』『高倉健ラストインタヴューズ』『トヨタ物語』『トヨタ現場のオヤジたち』『スバル ヒコーキ野郎が作ったクルマ』『トヨタに学ぶカイゼンのヒント71』『日本人とインド人』ほか著書多数。

著者紹介

連載トヨタ自動車の「危機対策本部」の舞台裏を大公開!

※本連載は、野地 秩嘉氏著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

野地 秩嘉

プレジデント社

コロナ禍でもトヨタが「最速復活」できた理由とは? 新型コロナの蔓延で自動車産業も大きな打撃を受けた―。 ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字となる中、トヨタは当然のように1588億円の黒字を達成。 しかも、2021…

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