地震で崩落しかけている倉庫…中にはトヨタの宝が?

現在であれば、危機管理の先遣隊は復旧計画を本部に指示して、戻ってくる。だが、阪神・淡路大震災の当時はそこまで役割分担が明確にはなっていなかった。先遣隊も現地に居残って、復旧を手助けしたのである。

 

しかも、住友電工の工場近辺はインフラも破壊されており、彼らは夜中に大阪まで戻り、ダイハツの寮に泊まったこともあった。結局、先遣隊とはいいながら、友山たちは3週間も伊丹市で、支援活動を行った。むろん、3枚の下着では持たなかったから、飲み水を残した水で軽く手洗いして、しのいだのである。

 

友山茂樹(執行役員、チーフ・プロダクション・オフィサー)の話。

─南八さんから「友山は焼結品(金属やセラミックスの粉末を成形し焼き固めたもの)のラインを元に戻せ」と指示されたので、ひとりで工場へ行き、先方の方々と一緒に力仕事もやりました。焼結品の炉は壊れていなかったけれど、プレス機が倒れていたので、それを復旧し、ラインを元通りにしました。

 

ただ、困ったのが焼結用の金型がないことでした。金型を保管してある倉庫の二階が今にも崩れそうで、300種類はある金型を取り出すことができない。崩落しかけていたから、工場長が立ち入り禁止にしたんです。

 

仕方なく僕らは完成在庫を調べ、金型さえ取り出せたら、すぐにラインを動かし、足りないものから作る準備をしていました。

 

そこで戦いが起きました。生産の順番です。住友電工はトヨタの部品だけを作っていたわけじゃない。他のメーカーの人もやってきて、部品はどうなっているんだと聞かれるわけです。ただ、彼らは支援に来たわけじゃない。焼結品がなくては車は作れませんから。受け取りに来たわけです。

 

あるメーカーの人間は僕に向かって、「おい、あんた、うちのを先に作ってくれ」と言うわけです。作業着で真っ黒になって働いていたから、住友電工の人間と思ったんでしょうね。

 

なかにはこんなのもいました。

 

「キミ、倉庫にある金型持って来てくれ。うちの協力工場で作らせるから」

 

さすがに頭に来ました。まだ若かったしね。

 

「お前ら、金型は会社の宝だ! 渡すことはできない」と怒鳴って…。

 

「あんた、誰?」と聞かれたから、「オレか、オレはトヨタの友山だ」と。向こうはポカーンとしてましたね。なんで、トヨタの人間がここで働いているんだ、と。

 

危機の時には支援に来たわけでもなく、自社のことばかり考える人間が必ず出てくるんですよ。

 

そこで原則を決めて伝えました。

 

一、金型は会社の財産だから渡せない。たとえ、代替生産のため、一時的に金型を他社に移すことはあっても、復旧後には生産と一緒に戻すことが前提。

 

二、復旧した後の生産の順番はすべての客先に公平に行き渡る順番で生産する。

 

僕らはトヨタの部品を作るためだけに復旧に来たんじゃない。ラインを復旧させた後はどこの会社にも平等にやったわけです。

次ページトヨタ自動車の部品の在庫はほとんどなかった

※本連載は、野地 秩嘉氏著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

野地 秩嘉

プレジデント社

コロナ禍でもトヨタが「最速復活」できた理由とは? 新型コロナの蔓延で自動車産業も大きな打撃を受けた―。 ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字となる中、トヨタは当然のように1588億円の黒字を達成。 しかも、2021…

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