熊谷雅之氏は著書『教師は学校をあきらめない! 子どもたちを幸せにする教育哲学』のなかで日本の教育問題について語っています。当記事では、現役教師の視点からその実態を明かしていきます。

「先生、そりゃ俺だって授業に出たいよ」

とても印象に残っているF君の話をします。彼は、いわゆるトラブルの多い子でした。何度も授業を抜けだしたりしてしまうのです。

 

ある日、いつものように授業を抜け出して体育館裏にいるF君と話をしました。私は隣に座り、「早く授業に行くぞ」と声をかけました。すると、その日に限ってF君は本心を語ってくれました。

 

「先生、そりゃ俺だって授業に出たいよ。でも授業に出ても内容がわからないんだよ。先生達が何言っているのかわからないし、指名されても答えられないし。それでも俺は朝から晩までそこにおとなしく座っていればいいのかね。勉強を小学校からやりなおせるなら、やりなおしたいよ」

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

私にとってF君の発言は衝撃でした。なぜなら、私が今まで経験した「当たり前」が大きく揺らいだからです。

 

私が初めて勤務した学校は、いわゆる生徒指導の大変な学校でした。大学を出たての私は、生徒がキレて暴れだしたら、「若手は先輩よりも先に体を張って止めに入る」ということを、教えられていました。

 

当然興奮状態の生徒と接することが多いので、格闘のような日々です。そのため、今思えば必要以上に厳しく、大きな声で叱ることもしていました。

 

子どもが自分の言うことを聞くようにするため、毎日必死だったのだと思います。そんな姿勢を今でも思い出して後悔することがよくあります。

 

しかし、実際にトラブルが多発し、学校が荒れた状態になると、わがまま好き勝手に授業を妨害する子どもの横で、真面目にがんばっている子が肩身の狭い思いをしているのです。我慢しているのです。

 

私は、そういう苦しむ子を守りたい、という思いで戦い、それが「生徒指導」だと思っていました。と同時に、頭ごなしに叱りつけ、上から押さえつけようとすればするほど、子どもとの心の距離が開いていくのは感じていました。

 

実際、ある生徒に包丁を向けられたこともあります。しかしそのときの自分は、「厳しい指導で嫌われることも仕方ない。誰かがやらなきゃいけない役目だ。これも若い教師の仕事だ」と自分を納得させてきました。

高校へ進学した彼から電話が…

そんな経験をしてきた中でふれたF君の本音。

 

「そうか。問題行動が多い子として見ていたこの子も苦しんでいたのか。みんな心の底ではよくなろうとしているんだ」とわかった途端、子どもを一面でしか見ることができていなかった自分を恥じました。そこから私は、F君が少しでも授業が楽しいと思ってもらえるように活躍の場面を考えたり、トラブルを起こしたときには、何がいけなかったのか、誰に迷惑をかけているか、自分を大切にするとはどういうことかを粘り強く話したりしていきました。

 

もちろん厳しく叱ることもしました。試行錯誤の日々でしたが、卒業を迎えるとき、彼からもらった手紙の内容には感動しました(短い文でしたが、内容は二人だけの秘密にさせてください)。あきらめずに関わり続けてよかったと思いました。

 

先日、中学校を卒業し、高校へ進学した彼から電話がありました。

 

「先生、俺進学することになったよ」

 

中学校のときの姿からは、誰も想像できなかったでしょう。

 

「すごい! お祝いだ! 飯行くぞ!」と言って彼とお寿司を食べに行きました。彼の将来を語る輝く顔は、忘れることができません。彼の立派に成長した姿を見て、改めて子どもの可能性は無限大だなと思ったのです。

 

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熊谷 雅之
愛知県の公立中学校、高等学校を卒業し、創価大学へ進学。
大学では、ダンス部に所属し、数多くの全国大会で入賞。教員採用試験は中学校社会科で受験し、東京都と愛知県で現役合格。そして地元愛知県で教員となる。
その後は、市内の教育論文コンクールで最優秀賞を受賞。
2020年現在34歳。地元の教育者グループ「本物の先生」に所属し、子どもの幸せを第一に考えた教育の実現を目指している。

本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『補助金の倫理と論理』より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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