トヨタの危機管理の大原則…なぜ「役員向けの報告書」は禁止か

2020年、新型コロナの感染拡大で世界の自動車産業も大きな打撃を受けた。ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字を計上するなか、トヨタ自動車は2020年4月~6月期の連結決算(国際会計基準)では、当然のように純利益1588億円の黒字を叩き出した。しかも、2021年3月期の業績見通しは連結純利益1兆9000億円と上方修正して、急回復を遂げる予想だ。トヨタ自動車はいったい何を行ったのか、本連載で明らかにする。

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日頃からの各部署の連携が、危機の備えには欠かせない

今回、具体的に対策会議で出した解決法は次の通りだった。

 

フィリピンの工場で作っていた量は他の国の工場よりも多かった。代替生産するにも一国では無理だったので、タイの工場と日本国内の工場に振り替えたのである。

 

「タイと日本のどこそこへ持ってこよう」と判断ができたのは調達部門が平時に精緻(せいち)な調達部品マップを作成していたからだ。

 

代替する場合、生産が動いている国で、フィリピンの工場のコストに見合った生産ができる国の工場に生産を振るのが基本だ。生産を振る場所が決まったら、次は日本の組み立て工場まで持ってくる物流のルートを確保しなければならない。

 

朝倉は言う。

 

「その部品の設備は工作機械が多いわけではないし、難しいものではありません。人海戦術でやって、できないことではない。ただ、手作業だから、人件費の安いところでやらなきゃならないんですよ。

 

それで、フィリピンが都市封鎖になったので、タイの工場に移管しました。また、一部は日本にも生産設備を引き揚げて、作りました。ただ、日本の場合は緊急にはやれるけれど、継続的にはできない。日本人がやったら、そろばんが合わないからです。

 

フィリピン、ベトナムといった手先が器用で、細かいことをやれる人がいるところで作るのが基本ですよ。要は、現在、部品を作っている工場って、最適生産だから、そこでやっている。1度変えたら、また元に戻さなきゃならん。そこまで考えて振替生産のプランを作って実行するわけです」

 

今回の危機に際してはタイミングがよかったと言っていいのかどうか判断に迷うところだが、トヨタは数年前から本格的な物流改革をやっている最中だった。

 

「リードタイムを短く、小口の量で、フレキシブルに、そしてリーズナブルな値段で運ぶ」物流を構築しているさなかだったため、物流ルートの振り替えもスムーズに行うことができた。

 

トヨタが供給危機に対応できたのは生産部門と物流部門が日頃から協同で物流改革に臨んでいたからだ。システムの端々までを知悉(ちしつ)し、動かし方をわかっていたので、振り替えも難しくなかったのである。

 

どんな会社でもセクションが違うとコミュニケーションがスムーズにいかなかったりする。危機への備えのひとつに各セクションが日頃から情報の共有を行っていることが欠かせない。ただし、これを実行することは簡単ではない。

 

たいていのメーカーは質はともあれ調達網のマップは作っている。つまり、振替生産のプランを立てることはできる。しかし、物流の全体マップを持っていても、フレキシブルな運用ができる会社は限られている。

 

メーカーであれ、販売会社であれ、商社であれ、危機管理では物流についての知識、知恵、現場経験が必要となってくる。危機に際しては物流ルートの状況把握と代替輸送をするとすればどこに頼むのか、それとも自社でやれるのかといったプランBを用意しておかなくてはならない。

 

野地秩嘉
ノンフィクション作家

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ノンフィクション作家

1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、ビジネス、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。

『TOKYO オリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。

『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『企画書は1行』『なぜ、人は「餃子の王将」の行列に並ぶのか?』『高倉健インタヴューズ』『高倉健ラストインタヴューズ』『トヨタ物語』『トヨタ現場のオヤジたち』『スバル ヒコーキ野郎が作ったクルマ』『トヨタに学ぶカイゼンのヒント71』『日本人とインド人』ほか著書多数。

著者紹介

連載トヨタ自動車の「危機対策本部」の舞台裏を大公開!

本連載は野地秩嘉著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

野地 秩嘉

プレジデント社

コロナ禍でもトヨタが「最速復活」できた理由とは? 新型コロナの蔓延で自動車産業も大きな打撃を受けた―。 ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字となる中、トヨタは当然のように1588億円の黒字を達成。 しかも、2021…

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