2020年、新型コロナの感染拡大で世界の自動車産業も大きな打撃を受けた。ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字を計上するなか、トヨタ自動車は2020年4月~6月期の連結決算(国際会計基準)では、当然のように純利益1588億円の黒字を叩き出した。しかも、2021年3月期の業績見通しは連結純利益1兆9000億円と上方修正して、急回復を遂げる予想だ。トヨタ自動車はいったい何を行ったのか、そして命運を分けたものは何だったのかを連載で明らかにする。本連載は野地秩嘉著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

危機管理のリーダーは踏んだ場数の多さで決める

車の部品数は約3万点とされている。トヨタの場合、そのうち3割は内製品だけれど、残りの7割は協力工場(サプライヤー)が作る。トヨタの工場が動いていても、協力工場が稼働していなければ車を製造することはできない。他人の工場ではあっても、身内のそれと同じなのである。そして、トヨタの場合、協力工場はデンソー、アイシンといったティア1、それからティア2、3といったところまで含めると世界中に十万以上ある。

 

調達部門はこれまで、大きな災害であっても欠品しないようサプライチェーンを整備してきた。取引のある部品会社の名称、作っている製品、代替できるとしたらどこの会社になるのかといったデータをすべて持っていて、マップにしている。生産部門・調達部門の対策会議の大きな目的は部品の欠品を防ぐことにある。

 

生産部門と調達部門がサプライチェーンのマップをもとにして、生産ができない部品工場を特定し、代替生産の計画を立てる。そして、トヨタの組み立て工場までの物流ルートを確保する。これが主な目的だ。

 

対策本部の会議に出る参加者は生産調査部、生産管理部、生産技術部、調達本部の幹部とスタッフ。加えて、販売、総務、人事、広報といった部署から適宜、参加する。

 

参加者はそれぞれの部署から選ばれたメンバーだが、誰に言われなくとも朝倉が座長に就くのと同じように、「対策本部の大部屋ができた」と聞いたとたんに、自ら姿を見せる男たちがいる。

 

阪神淡路大震災(画像はイメージです/PIXTA)
阪神大震災、リーマン・ショックなど何度も危機対応してきた不動のメンバーが危機管理を担当するという。(※画像はイメージです/PIXTA)

 

阪神大震災、リーマン・ショックといったかつての危機以来、何度も危機対応に就き、対策本部の不動のメンバーになっている男たちだ。彼らは自分が何をすればいいかを熟知している。何が起こっても、決してパニックに陥ることなく、適確に処理していく。

 

当たり前のことだけれど、危機管理、対応は危機のさなかにやる。コロナ禍であれば、自分や家族が感染するかもしれない状況のなかで仕事をしなければならない。そうした時に力を発揮するのは場数であり体験だ。

 

「東日本大震災の時はこうした」「台風19号の洪水対策はこうだった」と体験があれば迷うことは少ない。

 

それでも、判断に困ったら、ザ・ウルフ朝倉がいる。

 

阪神大震災以後の危機管理、対応はすべて彼がやっているから、なんでも答えてくれる。経験者が何人もいる重層的な構かまえになっているから、解決策が見つからないことはない。

 

危機管理のリーダーは地位ではなく、場数を踏んだ人間から選ぶことだ。

 

対策会議が始まるのは毎朝8時。会議は30分から1時間で終わる。コロナ禍では2月4日から始まった会議は2か月ほどは毎日、開催した。災害への対処であれば、メンバーは全員、大部屋で顔を合わせるが、今回についてはリモートで出席するメンバーもいた。

 

野地秩嘉
ノンフィクション作家

※本連載は、野地 秩嘉氏著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

野地 秩嘉

プレジデント社

コロナ禍でもトヨタが「最速復活」できた理由とは? 新型コロナの蔓延で自動車産業も大きな打撃を受けた―。 ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字となる中、トヨタは当然のように1588億円の黒字を達成。 しかも、2021…

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