「ずっと家にいたら頭がおかしくなる」と…
ひとり暮らしの高齢者は退院してからが大変だ
妖怪には娘と息子がいるので、緊急のときには助けを求められるが、ひとり暮らしの高齢者は、どうするのだろうか。
ひとりでは、血を出したとしても救急車も呼べないだろう。仮に呼べて、助かったとしても、退院してからが大変にちがいない。
病院にいるときは、ご飯も入浴も世話になれるが、家に帰ってきたら全部、自分でやらねばならない。
妖怪が退院のときに、同じく退院する80代ぐらいの男性がいた。彼は、看護師から退院後の書類の説明を受けていた。
「わかる? この書類は大事ですよ。ここに書くのよ。わかる?」
男性はうなずく。看護師はさらに聞く。
「今日、迎えの人はいるの? ひとりで帰るの?」
男性は弱々しくうなずく。ひとりで帰るようだ。わたしは、その男性に自分の将来の姿を重ねた。
うちの妖怪は運のいい人だ。出血により、頭の外に血を出したことで、大事には至らずに済んだのだ。
退院してから1カ月もすると、すっかりもとに戻り。
「ずっと、家にいたら頭がおかしくなるから」と、いつものようにおしゃれをして、電車に乗って、銀座久兵衛にお寿司を食べに出かけて行った。
松原 惇子
作家
NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク 代表理事
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