日本企業がコロナを乗り越えるには、どうすればよいのでしょうか? 経産省は企業への影響を緩和するために、様々な支援策を打ち出しています。その一つが「事業再構築補助金」。思い切った事業再構築を支援するとして、3月より公募を開始します。しかしながら、補助金によってダメになる企業も少なくありません。強力なバックアップとして活用するには、どうすればよいのでしょうか。中小企業の経営支援を幅広く行う筆者が解説。

むしろ企業をダメにする?「補助金」の効果に疑念

ウィズコロナ時代、テイクアウトを始める飲食店のように、新しい取り組みに力を入れる企業が増えてきました。これらの取り組みの背景には政府や行政による、設備投資や取組費用を補填する補助金の支援も大きく貢献しています。

 

たとえば少人数の企業や個人事業主が対象となる国の補助金、小規模事業者持続化補助金(コロナ特別対応型)は支出費用の2/3または3/4が100万円まで補助され、加えて消毒用アルコールやマスクなどの感染防止対策費用が別途50万円まで補填されることもあり応募が殺到しました。

 

今後も、企業の新たな取り組みを支援するべく、国では引き続き多くの補助金を検討しています。特に現在注目されているのが、積極的な事業転換を支援する「事業再構築補助金」と呼ばれるもので、なんと、中小企業であれば支出費用の2/3が最大6千万円まで補助され、1兆円を超える予算額が組まれるといわれています(※記事執筆は3/10時点)。

 

原則、返済不要である補助金は、投資に足踏みをする企業や資金繰りに窮する企業にとって魅力あるものです。会社の命運をかけるような事業に対して補助金が得られたとなれば、追風そのもの。また、採択されたとなれば国などのお墨付きがついた事業と見られ、金融機関からの信用が得られたり、社員の士気が上がったりといった効果もあります。

 

しかし、一方で補助金の効果に対して疑問も投げかけられています。昨年、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)が作成した報告書に、長年実施されてきた中小企業向けの「ものづくり補助金」について「政策効果があるとは言い切れない」と記載されたことが話題になりました。

「あえて赤字になる企業」「補助金目当ての企業」続出

補助金の効果を測る指標の一つとして「付加価値額」が挙げられます。この付加価値額は大雑把に言えば、①会社の利益を示す営業利益、②給与総額、③減価償却費の合計額とされます。つまり、会社が儲かり、社員の給与を上げ、設備投資をさせることが補助金の狙いとなるわけです。

 

ですが、実態は補助金で設備投資は行うものの、利益が出た場合には補助金を返還しなければならないよう法律で定められているため、あえて赤字になるよう数字を調整したり、社員の給与を上げなかったり、といった事例が多く見受けられました。

 

具体的には、売上が増加した分、役員報酬を上げるものの、従業員給与は据え置き、会社としては赤字にしておくといった具合です。

 

特にコロナの影響が出る前は好景気であったにも関わらず、労働者の所得が増えないケースが散見され、数年前からは補助金の要件に従業員の賃金アップが盛り込まれたり、申請時の加点要素になったり、といった対応措置や修正が加えられています。

 

また、補助金を得ることを目的にして計画を組み立てるといった具合に、目的と手段が逆転してしまう企業・組織もあります。結果、必要のない何千万円もする機械を買い、ほこりをかぶるだけのケースもあるようです。

 

他にも、創業支援の補助金制度を聞き知り、補助金をもらえる前提で事業を検討し、補助金がもらえないなら創業しないというスタンスの方もいらっしゃいます。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

「補助金がもらえるなら、やってみよう」。そのような軽い心持ちでは、補助金による事業効果を期待することは難しいでしょう。補助金がかえって事業者の意思を歪めたり、弱らせたりすることもあるといえます。

「不適切な申請」で報酬を稼ぐ無責任な代行業者も

さらに、申請補助者や代行業者が補助金制度を悪用するケースもあります。一般的に補助金の申請にはA4用紙10枚程度の事業計画書が必要となります。普段、書類を作成する機会が少ない事業者にとっては、とても大きなハードルです。

 

補助金は我々の血税です。国や自治体も、申請された内容が適切であるか、事業の効果がありそうかを見極めるためにどうしても慎重な対応となります。結果、公募要領の審査項目に沿って十分に説得力ある内容に仕上げる必要があり、提出書類数が多くなることに加え、書き方のお作法のようなものが固まってきています。

 

そのため、初めて補助金を申請する企業は独力で採択までたどり着くことは難しく、申請補助を得意とする士業や代行業者に書類作成を依頼するケースも多々あります。

 

しかし彼らの中には採択時の成功報酬目当てで、申請を通すこと(=採択)だけを目的に、到底実現できないようなでっち上げの事業計画書を作成したり、ルールの裏をかいて補助金額を吊り上げたりといった違法行為を指南する業者もいるようです。そして採択後は、成功報酬をもらって、そのあとはフォローをせず企業任せにして責任逃れをする、といった具合です。

 

よく見落とされることなのですが、補助金制度は申請が採択されても、実際の入金はかなり後になります。最悪の場合、もらえないことだってあります。

 

まず、企業が設備などを購入し実際に事業を始め、その結果を報告書に仕上げて、問題ないと認められて初めて補助金がもらえる流れになっています。ゆえに、いくら採択されても実施できないような事業計画であれば報告書が書けず、補助金がもらえないということも十分に有りうるのです。

 

補助金は麻薬と言われることがあります。基本的に返済不要であり、中には億単位の大金がもらえるものもあります。しかしその魅力に釣られ、手段と目的が逆転してしまうことが多いのもまた事実なのです。

 

もちろん、補助金に関する不正は犯罪です。不正と認定された場合、申請者である企業自身が罰せられる可能性もあり得ます。補助金の申請に当たっては、外部の支援を受ける場合であっても自分が申請する主体であることを意識し、必ず公募要領に目を通すなど丸投げしないようにすることが肝要です。

補助金を「強力な後押し」とするには、相談相手が重要

ネガティブな面を説明しましたが、それでもやはり補助金は迷える企業の背中を押す力となります。適切に補助金を活用する企業が増えれば、日本全体としてみても、コロナという未曽有の危機を乗り越える起爆剤となるはずです。

 

これから募集が始まる前述の事業再構築補助金は、事業計画を認定経営革新等支援機関と策定することが要件となっています。この認定経営革新等支援機関とは、中小企業が安心して経営相談等が受けられるために、専門知識や実務経験が一定レベル以上の者を国が認定する制度で、税理士、中小企業診士などの士業や金融機関、商工会議所などが登録されています。

 

つまり、適切なパートナーと一緒に取り組み、事業内容を相談しながら進めていくことが求められています。彼らの力を借りつつ、ぜひとも事業効果が認められる新しい事業の取り組みに邁進しましょう。

 

 

盛澤 陽一郎

中小企業診断士

 

森 琢也

MASTコンサルティング株式会社 コンサルタント、中小企業診断士

プロフェッショナルコーチ

 

 

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