「毎年確定申告するのが面倒くさい」「節税したいけど、どうしたらいいか分からない」……、毎年1月頃になるとこのような声をよく聞く。日本の税制は、納税者自ら確定申告をする「申告納税制度」で、申告内容の一部は納税者の選択に委ねられているのだ。申告相談に携わった元国税専門官が、節税にはどっちが得なのか、プロの税金術を公開する。本連載は小林義崇著『元国税専門官が教える! 確定申告〈所得・必要経費・控除〉得なのはどっち?』(河出書房新社) より一部を抜粋し、再編集したものです。

開業費は必要経費にするタイミングを柔軟に設定

では、なぜ開業後の支払いよりも、開業前がいいのかというと、開業前の支払い、つまり開業費にしたほうが必要経費にするタイミングを柔軟にアレンジすることができるからです。

 

通常、必要経費は、支払った年など、決まったタイミングで使うことになります。ところが、開業費の場合、「60か月の均等償却」または「任意償却」のいずれかを選ぶことができます。

 

このうち「60か月の均等償却」というのは、簡単にいえば、「60か月に分けて必要経費にする」ということです。

 

平成31年2月に開業して、その時点で120万円の開業費がかかっていたとしましょう。すると、1か月あたり2万円の費用を計上できることになり、年末までに11か月ありますから、2万円×11か月=22万円を令和元年分の所得税の必要経費にできるというわけです。

 

一方、「任意償却」を選択すると、なんと、いつ必要経費にしても問題ありません。先ほどのケースのように開業費が120万円あれば、「初年度は10万円を、翌年に110万円を必要経費にする」といったことも認められるのです。

 

所得税の税率は5〜45%の累進税率ですから、所得が多い年に開業費を必要経費にすると、より節税効果は高まります。逆に所得が赤字の年は、必要経費をそれ以上増やしても節税になりませんから、開業費を使わず残しておくことが有効です。

 

こういった意味から、開業届の提出は、「できるだけ遅めに」と考えたほうがいいでしょう。たとえば、店舗を建てはじめたときを開業日とするのではなく、じっさいにお店をオープンして売上が立った日を開業日にすれば、オープンの準備費用を開業費とすることができます。

 

最後にもうひとつアドバイス。「開業費の支払いは開業日の何年前まで認められるの?」という疑問についてです。

 

この点についても、法令上明確なルールはありません。たとえば開業日より3年前に支払った費用であっても、開業のための費用ということが明らかであれば開業費として認められます。

 

とはいえ、たとえば10年前の支払いとなると、常識として「開業との関係が薄いのでは?」と考えられるリスクがあります。もし、開業日よりかなり前もって支払う費用があるなら、その費用が開業のための支払いであることをきちんと書面などで残しておいたほうが安心です。

 

本記事は「確定申告〈所得・必要経費・控除〉得なのはどっち?」(河出書房新社)の一部を抜粋し、2021年2月現在の法令等に合わせ加筆したものです。法改正などにより、内容が変更となる可能性があります。

 

 

小林 義崇
フリーライター 元国税専門官

 

 

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