本記事では、第14次規画を見る上で注目される(中国当局が言うところの)「民主的プロセス」と「民生重視」、海外華字各誌を中心に伝えられる「習李不和・暗闘」と規画の関係、および2035年までの長期(遠景)目標について触れる。また最後に、3月5日全国人民代表大会(全人代)において、李克強首相が政府工作報告で明らかにした点を、これまでの記事で言及した問題との関連を中心に追記した。本稿は筆者が個人的にまとめたものである。

2035年長期目標提示の意図

5中全会では2035年長期(遠景)目標についても建議が採択され、そのなかで、2月24日掲載記事『中国5ヵ年規画で焦点となる向こう5年間の成長率目標は?』で触れた中等発展国家目標や、「核心技術の突破(ブレークスルー)」を図ることを通じて、2035年までに社会主義現代化長期目標を基本的に実現するとの目標が掲げられた。歴史上こうした長期目標が掲げられた例がないわけではないが稀だ。

 

種々憶測があるが、2018年に習氏が憲法を修正して国家主席任期制限を撤廃した延長線で、自らを長期政権にする意図を示したとの見方が多い(連載『中国国家主席「任期制限撤廃」を読み解く~習政権の思惑は?』参照)。 

 

(注)「一锤定音」「定于一尊」は何れも中国の故事成語。前者は「どらを作るとき、最後のひと打ちでその音が決まる→なに事も権威ある者の一声で決まる。鶴の一声」、後者の語源は「史記秦始皇本紀」で「すべての思想や道徳などの基準を決める最高権力者」。 (出所)2020年1月6日付海外華字誌自由亜洲電台に「变态辣椒」名で掲載されたものを転載
習氏への権力集中をやゆする海外華字誌 (注)「一锤定音」「定于一尊」は何れも中国の故事成語。前者は「どらを作るとき、最後のひと打ちでその音が決まる→なに事も権威ある者の一声で決まる。鶴の一声」、後者の語源は「史記秦始皇本紀」で「すべての思想や道徳などの基準を決める最高権力者」。
(出所)2020年1月6日付海外華字誌自由亜洲電台に「变态辣椒」名で掲載されたものを転載

 

昨年8月に開催された恒例の北戴河会議(現指導層や長老が集まる秘密会議)の際にも(党内の緊張高まる?中国指導部「北戴河」秘密会議の内部事情参照)、会議期間中と思われるタイミングで、新華社が2035、50年までの発展目標を定めた鉄道先行規画を報じたことを巡って、習氏が長期政権の意図を示した、いや、新華社報道のされ方が、習氏の名前に言及せず、「新時代」も、習氏の名前を冠して「習新時代」とはされなかったこと、また「国家鉄路有限公司発表」とされていたことから、長老は長期政権を容認はしなかったなどと憶測された。長期政権の話を別にしても、習氏の次のような意図が透けて見える。

 

①習氏は2017年の第19回党大会で「2020〜35年、全面小康(ゆとりある)社会建設を基礎として社会主義現代化を実現する」ことを提示し、その後、国防、科技、鉄道など様々な分野の発展目標を2035年に設定している。これはかつて鄧小平が「三歩走」、つまり進むべき3つの発展段階を提唱し、「21世紀中葉までに社会主義現代化を実現する」とした第3段階を15年前倒しすることを意味している。この方針を改めて示すことによって、自らが鄧小平の雄大な長期戦略を引き継いでいることを誇示し、自らを鄧小平と同格に位置付けるねらいがある。

 

②かつて毛沢東や江沢民元国家主席が行ったように、自らの在任中に長期計画を策定し、退任したあとの方向性を決めることによって自らの権威を維持する。例えば、江氏は就任後まもなくの1995年、第9次5ヵ年計画と合わせて2010年遠景目標を提示したが、それは次期指導者(結果的に胡錦涛氏)を「小弟」、つまり子供扱いしたものだった。

 

③いわゆる「中国モデル」が西側先進諸国とは異なる「もう1つの発展の路」であることを内外に示すこと。2010年ごろに世界2位の経済大国になって以来見られている傾向だが、新型コロナのパンデミックを機に、中国の現行体制が新型コロナへの対応で西側先進諸国よりもより効果的であると主張するなど、その傾向がさらに強まっている(『新型コロナに翻弄される中国「ガバナンスと経済のジレンマ』参照)。

 

次期規画のキーワードになりつつある「国内大循環を主体とした双循環」「科技自立自強」がどう具体化され、実行されていくかをフォローしていくことが重要であると同時に、それを通じて、中国指導部が中期的に経済のあるべき姿をどう考えているかを探ることが必要だ。

3月5日全国人民代表大会の政府工作報告で明示された点

本連載『中国「第14次5ヵ年規画」の注目点』で言及した成長率などの指標を中心に、2021年3月5日全国人民代表大会(全人代)の李克強首相による政府工作報告(以下、報告)で明らかにされた点の要点をとりあえずまとめると、以下の通り(全人代の詳細は追って掲載予定)。

 

2021年成長率については、2020年の発射台がコロナの影響で低くなったことから、一般に8%以上の成長率は容易との声が多い中、「6%以上」と控えめに設定。財政政策面で赤字比率目標や地方政府が発行する専項債(特定のプロジェクトの資金調達を目的に発行する債券)の発行額上限が厳しくなり、またコロナ対応の特別国債発行も停止されるなどの措置を勘案すると、中国当局が昨年コロナで成長率が落ち込んだことを奇禍として、本年はバブル再燃や債務膨張を抑制する機会と捉えていると解釈することができる。いずれにせよ、本連載で指摘したように、数値目標を設定すべきでないとの声が高まる中、改めて数値目標を廃止することに対する中国指導部内の抵抗が強いことが読み取れる。

 

金融政策面については、報告が「マクロ政策は不急転弯、急激な転換はない」としたことに合わせた形で、金利引き下げや準備率引き下げへの言及はなく、穏健な金融政策を「柔軟、正確、合理的、適度」に続けていくことを強調。また、民生重視を示す観点から、都市部新規雇用創出は2020年目標の900万人から2019年目標1100万人に戻し、失業率目標も2020年より厳しく設定。第14次規画については、成長率目標が提示されなかったことが異例。報告の言いぶりから、政策運営の柔軟性の余地を確保しようとしたものと解釈することができる。

 

(2021年単年目標)

 

1.成長率:経済の回復状況を考慮して「6%以上」に設定。報告はこれに関連し、「各方面が改革・イノベーション(創新)を集中的・精力的に推進し、質の高い発展を推し進めていくことに寄与するもの」としている。

 

2.研究開発費:中央政府予算の基礎研究費の伸びを10.6%にする。報告は「科技要員の研究費使用の自主性を拡大し、不合理な業務負担を軽減するなどして、科技要員が長年研鑽を積んできた成果を発揮する(十年磨一剣)という精神で、コア技術分野のブレークスルー(突破)を実現」とした。

 

3.その他マクロ指標(カッコ内は前年目標):財政赤字率3.2%前後(3.6%以上)、M2と社会融資総量は名目経済成長に見合った伸び(2019年よりかなり高い伸び)、調査都市部調査失業率5.5%前後(6%前後)、都市部新規雇用創出1100万人(900万人)、消費者物価指数上昇率3%前後(3.5%前後)、地方政府専項債発行3.65兆元(3.75兆元)、特別国債は計画なし(1兆元)、減税・経費節減については、報告では小規模事業者の増値税(付加価値税)の課税最低限月売上額を10万元から15万元に引き上げるなどのミクロ措置は発表されたが、マクロ数値目標への言及はなし(2.5兆元以上)。

 

(第14次5カ年規画目標)

 

4.成長率:報告では具体的な数値には言及せず、「潜在成長力を十分発揮することを促進」「経済の運行は合理的な区間を保持」「各年度の具体的・実際の状況に基づき(視情)成長率預期目標を提出」とされた。2035年までに1人当たりGDPを中等発達国並みにする方針は提示。

 

5.研究開発費:年平均7%以上の伸びを目標。これに関連し、報告は「第13次規画実績より高い投入強度(対GDP比)実現に努力」「基礎研究実施の10年行動方案を制定する」とした。

 

6.環境関連:GDP単位当たりエネルギー消費13.5%減、同CO2排出量18%減。森林カバー率24.1%。カーボン・ニュートラルに関しては報告で目新しい具体策への言及はなく、2030年までにCO2排出量のピークを迎える行動方案策定方針を繰り返したのみ。

 

7.その他目標:平均寿命を1歳伸ばす。都市部調査失業率5.5%以内、都市部常住人口で見た都市化率65%。基本養老保険加入率95%、法定退職年齢の段階的引き上げ。

 

 

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