超高齢化社会の日本では、認知症になる人が増えています。不正防止の観点から、認知症とわかると預金者の口座を凍結して「成年後見制度」をすすめてくる銀行もありますが、他に選択肢はないのでしょうか? 今、「家族信託」を使った認知症対策が注目されています。「家族信託」とは何なのか? その仕組みとメリットについて解説します。※本連載は、石川秀樹氏の著書『認知症の家族を守れるのはどっちだ!?成年後見より家族信託』(ミーツ出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

家族信託なら「自分に関わるお金」を子が引き出せる

ここからちょっと難しいお話をします。

 

たまに必要になる“合鍵”なら、今でもあります。「委任――代理」という方式です。ある人(Aさん)が別の人(Bさん)に事務を委任することによって、BさんはAさんの代理人として事務をする。父が娘に「私の代わりに○○万円をおろしてきて」と委任状を書いて、通帳と印鑑を持たせて銀行に行ってもらう、というのが典型的な例です。

 

こういう代役は、Aさんが元気なうちなら何の問題もなく立てることができます。

 

ところが今は超高齢社会で認知症多発時代です。そもそも「委任――代理」の前提は「委任する人に意思能力があること」ですから、認知症などでそこが怪しくなってくると合鍵は成立しなくなってしまいます。

 

しかも父がほしいのは「臨時の代理人」ではなく、恒久的な自分の“分身”です。意思能力も判断能力もある今のうちに、将来衰えるかもしれない自分のために自分の意思に沿って事務をしてくれる人を見つけたいのです。これは、“ないものねだり”に近い、とても難しい要望です。

 

ところがそれに近いことが、昔はできたんですよ。「家督相続」という旧民法(明治31 年~昭和22 年)が認めていた相続制度です。この制度では、戸主(その家の家長)が亡くなると長男ひとりが全部の遺産を継承・相続します。現在の感覚からすればとても不公平。

 

ただ、ユニークな点がひとつありました。“隠居”という制度です。

 

家督相続の時代、家長はすべての財産を相続する代わりに、一族の面倒をみるという暗黙の了解がありました。責任重大。神経を使う。だから高齢になると『そろそろ私の役目は終わりにしたい、若い者に家督を譲ろう』ということが許されていたのです。自発的な代替わりですね。この代替わり、ほとんど税金がかからず行うことができました。

 

戦後は民法が一変して、相続でも平等主義を貫くようになりましたから、家族の誰かに家督を譲って隠居するなどという制度は消えてしまいました。今それを実現しようとすると、高い贈与税がかけられて損をします。だから誰もそんなことはしない…。ということなんですが、「家族信託」を使うとこの“隠居制度”を、よい意味で復活させることができます。

 

イラストで父は「財産管理を全部(娘に)任せたい」と言っています。これに対し娘は「信託すると財産は私の名義に換わるの」と説明しました。しかもこの財産移転について贈与税は一切かかりません。これってまさに隠居の実現です!

 

ただ、少し違うところがあります。隠居は全財産を次世代に譲ります。だからご隠居さんは、気楽にはなるけれど、金銭的にはキュークツ。家族信託はそこが全然違います。

 

財産の管理権は「名義」が移ったことで、受託者である娘が完全に握ります。ところが受託者はその財産を自由に使えるわけではなく、財産がもたらす利益のほぼ全部を受益者のために使います。耳慣れない「受益者」という言葉を、ここでしっかり覚えておいてください。

 

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認知症の家族を守れるのはどっちだ!?成年後見より家族信託

認知症の家族を守れるのはどっちだ!?成年後見より家族信託

石川 秀樹

ミーツ出版

認知症による預金凍結を防ぐ。名義を移してお金“救出”信託こそが庶民の知恵。カラーイラスト、読みやすい文章、豊富な信託事例。 第1部 認知症と戦うー財産凍結の時代が来た!成年後見より家族信託を使え 第2部 受益権…

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