相続人の誰かが遺産分割前に亡くなり、連続して相続が発生することを「数次相続」といいます。今回は、養子縁組をしたら、思わぬ遺産トラブルに巻き込まれた男性の事例をもとに、税理士の岡野雄志氏が「数次相続」について解説します。

「開かずの金庫」必ず開けるために壊すことに

これには、税務調査官も唖然。Hさんも呆然。急遽、鍵業者に連絡し、後日改めて「開かずの金庫」をこじ開けて、中を確かめることになりました。

 

「開かずの金庫」というと、BSの某テレビ番組のように鍵師が技を駆使して解錠するのを想像されるかもしれませんが、税務調査のため、確実に開けなければいけません。ここは、力業(ちからわざ)での開錠です。業者はドリルで錠を壊す道を選択しました。

 

とはいっても、さすが金庫です。そんなに簡単に錠を壊すことはできません。午前中から取り掛かり始め、昼休憩を挟んでようやく鍵を取り外すことができました。さあ、いよいよ「開かずの金庫」のオープンです!

 

扉の向こうに鎮座していたのは、きちんと帯封(おびふう)された1万人の「福沢諭吉」。つまり、1万円札が100枚ずつ、100束眠っていたのです。

 

(写真はイメージです/PIXTA)
(写真はイメージです/PIXTA)

 

これには、一同、思わず絶句。しかし、仰天してばかりもいられません。すぐにHさんの取引銀行が呼ばれ、改めて行内で数え直したところ、きっちり1億円ありました。これが毛布にくるまれ、押し入れに放置されていたかと思うと…よくぞ無事だったものです。

 

また、鍵業者にいわせれば、金庫の耐久性も永遠ではありません。耐用年数はおよそ10年で、それを過ぎると側面に入れられているセメントが次第に劣化してきます。火事や洪水にでも遭っていたら、今頃、この「福沢諭吉」は拝めなかったかもしれません。

 

もしも、税務調査が入らなければ、金庫の存在は忘れ去られていた可能性もあります。まさに怪我の功名です。

 

今となっては、この札束が養父のものなのか、養母のものなのかはわかりません。しかし、当税理士事務所は、できるだけ節税になる相続方法で修正申告を行うことにしました。

 

開かずの金庫から出てきた札束は、もともと養母のもので、養母から養父とHさんへの相続があったあと、養父からHさんへの相続があったという考え方です。相続税は遺産総額から基礎控除を差し引いた遺産額に課税されるので、このほうが相続税額を抑えられます。

 

(写真はイメージです/PIXTA)

 

Hさんの養親は、養母→養父の順で亡くなったので、札束がすべて養父のものだとすると、Hさんは1億円全額相続したことになり、相続税額も高額になってしまうからです。

 

(写真はイメージです/PIXTA)

 

税務署もこの考え方で合意し、もちろん、Hさんもこの方法で修正申告することを承知してくださいました。相続額が増えた訳ですから、納税する相続税額も増えてしまいますが、Hさんは「それは当然のことだから」と飄々(ひょうひょう)としていらっしゃいます。

 

あとはいかに追徴課税を抑えるかが、私たち税理士の役割です。税務調査後の修正申告の場合、延滞税、重加算税もしくは過少申告加算税がペナルティとして課されますが、税務署に交渉し、重加算税は免れることができました。Hさんが故意に相続財産を隠ぺいしていた訳ではないからです。重加算税は税率最大40%ですから、大きな負担となります。

 

相続税の修正申告と納税を済ませ、Hさんは今度こそ本当に養子としての役目を果たしたと、心から安堵しておられます。それにしても、養親はあんな大金をなぜ現金で金庫に入れていたのでしょう? Hさんが相続税を納めるのに現金が必要になるからではないかと、人のいい実親は話しているそうです。

 

岡野雄志

税理士

 

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