
多くのサラリーマンにとって定年退職時に受け取る退職金は、人生で初めて目にする高額の現金ではないでしょうか。おまけに長年の重責から解放されたとなれば、つい気が大きくなり浪費しがちです。しかし、とりわけ注意が必要なのが「退職金による投資デビュー」です。多額の現金を保有する初心者は、大きなリスクと背中合わせにあることを忘れてはなりません。経済評論家・塚崎公義氏が解説します。
インフレ対策として、ドルや株の保有はお勧めだが…
サラリーマン(女性を含む、公務員等も含む、以下同様)は、退職金を受け取ると否が応でも老後資金のことを考えるようになるでしょう。まずは住宅ローンを返済し、残りの資金は銀行預金に置いておくべきか、それとも投資をするのか、迷う人も多いでしょう。
筆者としては、老後資金を全額銀行預金に置いておくことはお勧めしません。インフレがきたとき、銀行預金が目減りして老後の生活に困る可能性があるからです。それならば、資金の一部をインフレに強いドルや株式(具体的には内外株式の投資信託、以下同様)として持つべきだと考えています。
とはいえ、これまで投資をしてこなかった人が、いきなり退職金による多額の投資をすることは、以下の理由からお勧めできません。

潤沢な退職金で、数百万円もの株を一気に購入!?
退職金は、まとまった金額が一度に支給されるので、投資をはじめようと考えた場合に頭に浮かぶ投資金額も、当然大きなものになるはずです。
しかし、投資に重要なのは「銘柄分散」と「時間分散」です。色々な銘柄の株式を、時間をかけて少しずつ買うことによって、一部の銘柄が暴落しても損失は限定的なものとなりますし、買ったときがたまたま株価暴落の直前だった、といったリスクも回避することができるわけです。
銘柄分散のほうは、投資信託を買うことで満たされるはずですが、退職金デビューでいきなり何百万円もの株を買うと、たまたまその日が株価暴落の直前だった、というリスクを抱えることになりかねません。
退職した段階で投資残高がなくても、一気に買うのではなく「今後数年間で目標投資額に達するように、少しずつ投資信託を購入していく」といった工夫をすれば、リスクは大幅に軽減できるでしょう。
退職金が出る前から(住宅ローンの繰上げ返済を我慢して)少しずつ積み立て投資を実行しておき、退職金で住宅ローンを返済する、といったことが実現できれば、さらにいいですが。