「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母親が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。日本の高齢化は進み、高齢者と後期高齢者という家族構成が珍しくなくなってきた。老いと死、そして生きることを考えていきます。本連載は松原惇子著は『母の老い方観察記録』(海竜社)を抜粋し、再編集したものです。

日ごろから自然と体にいいことをやっている

不規則な生活のわたしとはまさに正反対なので、引っ越してきたときは、「娘にリズムを崩された!」とよくひとり言を言っていたのを耳にした。

 

「えっ、リズムを崩された?」少しは安心したところがあったのでは、と内心思っていたので、多少ショックだった。

 

わたしが、妖怪の出す音をうるさく感じたように、妖怪は妖怪で気ままな生活をしている娘を見ているだけで、気分が悪かったにちがいない。わたしたちは親娘といっても、真逆だ。

 

妖怪は椅子にもたれない

 

わたしの観察によると、妖怪はもたれないことが判明した。胃がもたれないのではない。椅子の背にもたれないのだ。たまにしか会っていないときには気づかなかったが、妖怪は椅子の背にもたれたり、ソファに横になったりすることが、ほとんどない。これにはちょっとびっくりした。

 

家に帰ると、真っ先にゴロンとソファに横になり、テレビのリモコンをつけるわたしとは大違いで、妖怪はいつもスツールにちょこっと座っている。今どき、スツールのある家は少ないと思うので説明すると、スツールとは、背もたれのない丸い筒型の椅子のことだ。そう、昔、キャバレーやナイトクラブで、お姉さんが座るちょこっと腰かけられる丸い椅子あれだ。

 

テレビを見るときも、ご飯を食べるときも、いつもそのスツールに座っている。

 

居間にはソファセットもテーブルセットも置いてあるが、もはや、居間の家具は美術館状態だ。

 

要するに妖怪は働き者なのだ。もたれて座るとサッと立てないので、すぐ立てるスツールになったようだ。テレビを見ながら台所に立ったり、ゴミを捨てにいったり、新聞を束ねたりと妖怪は忙しい。この話を、93歳でひとり暮らしをしている母を持つ友達に話したところ、「うちもよ」と二人で大笑いした。

 

元気で長生きの人はゴロンとしていない。おしなべてまめに動く働きものだということがわかる。ちょこちょこ動くから、わざわざウォーキングに行かなくてもいいし、スツールに座っているので、知らないうちに体幹が鍛えられている。本人はまったく意識してやっていないが、日ごろから自然と体にいいことをやっていることになるからすごい。

 

そういえば、この間、横になってテレビを見ていたら、「椅子にもたれないだけで、体幹が鍛えられる」と専門家が言っているのを耳にした。つまりピンピン長生きの人は自然にそれをやっていることになる。

 

また、妖怪は居間と台所との往復回数が、半端ではない。立ったりすわったり忙しいので、自然に鍛えられているのだ。一方、娘のわたしは机仕事が多いので、ほとんど歩かない。それを補うためにジムに通っているが、マシーンで筋トレするというよりは、お風呂に直行することが多い。やはり、どう見ても、妖怪よりわたしの方が先にくたばりそうだ。

 

 

 

 

松原 惇子
作家
NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク 代表理事

 

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母の老い方観察記録

母の老い方観察記録

松原 惇子

海竜社

『女が家を買うとき』(文藝春秋)で世に出た著者が、「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。 おしゃれ大好き、お出かけ大好…

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