中国では、昨年10月末の党中央委員会全体会議において、習近平国家主席が「2035年までにGDPまたは1人当たり収入を倍増することは完全に可能」と発言。その後の建議報告会では、韓文秀党中央財経委員会弁公室副主任が「次期規画期間中の年平均5〜6%成長は実現可能」と説明した。これらの数字の実現可能性、またそもそも規画で何らかの成長率目標が提示されるのかを探る。本稿は筆者が個人的にまとめたものである。

規画では「数値目標は提示されない」との憶測も

昨年5中全会の建議は成長率の数値目標を提示せず、さらに、現行第13次5ヵ年規画を議論した2015年の5中全会で採択された建議にはあった「経済の中高速成長を維持する」のような定性的文言もなく、「潜在成長力を十分発揮する」との記述に止まった。このため、最終的に規画で数値目標が提示されないのではないかとの憶測もある。

 

以前からエコノミストらの間で、政府は規画や年度経済運営で成長率目標を提示すべきでないとの意見がある。最近では2021年1月、有力エコノミストの馬駿人民銀行(PBC)貨幣政策委員会委員が財富管理50人論壇セミナーで、「中央が成長率目標を設定すると、地方政府が成長率目標を上げる習性がどんどん強まる(層層加碼〈ツアンツアンジアマー〉)。

 

成長率を高くする最も安易な方法は投資に頼ることで、そのため債務が膨張し金融リスクを招く。地方政府が成長率を虚偽報告するなどの問題も惹起する。今年(2021年)から中央は数値目標設定を止めるべきだ」と発言したことが注目された(『中国「経済統計」の水増し、矛盾の実態とは?』参照)。政府部門の1つである発展改革委員会(発改委)直属の国家信息(情報)中心は、(上述のような)労働力人口とGDP規模要因を考えると、もはや雇用確保のため高成長を目指す必要はないとしている。

 

他方で成長率目標に関連して、5中全会直後の記者会見で寧吉喆(ニンジージェー)発改委副主任兼国家統計局長は、「発改委は関連する量的目標、具体指標を提出する予定」と述べ、また習近平国家主席は5中全会で建議の補足説明をした中で、「いくつかの地方や部門から数値目標を明確に提示すべきとの意見があった」ことを明かしている。各地方政府・部門に明確な数値目標を提示しなければ経済が失速するとの意見は、政府部内や専門家の間でなお根強い。

 

すでに31省市区政府の大半が地方両会(全人代と政治協商会議)を開催し、各々の5ヵ年規画綱要を決議している。多くが発展の質を重視し、先進的な製造業、戦略的新産業、現代サービス業の構築、特にデジタル経済や人口知能(AI)の推進を産業戦略の柱に位置付けると同時に、成長率目標については、必ずしも全国成長率が設定されることを前提にしているわけではないが、北京市と上海市が規画期間中の年平均成長率を5%前後としている他、多くが第13次規画から目標値を下げ、年平均5〜6%の水準を掲げている。その中で海南と貴州は各々10%以上、7%前後と高い目標を設定、また江西、安徽、海南、遼寧の4省はGDP規模の全国順位を上げる目標も同時に掲げている(2021年2月1日付「第一財経」、1月11日付「証券時報」)。

 

なお2021年単年の成長率目標については、2月下旬、公表が遅れていた河北と黒龍江も含め、31省市区の目標が出揃った。発展水準の高い北京、上海、広東が6%以上、近年成長著しい中西部の雲南、貴州、河南、湖南などが7〜8%以上、自由貿易港(FTZ)を推進する海南と最も新型コロナの影響を受けた武漢を省都とする湖北が10%以上など、6%を切る目標はなく、大半が6〜8%と総じて強気の目標だ。ベースとなる2020年がコロナ要因で落ち込んだため数値目標が設定し難い面もあり、全人代は昨年同様全国目標を提示しない可能性も排除できないが、仮に提示するとしても、設定の仕方は従来と異なるかもしれない。

 

5中全会で同時に承認された2035年遠景(長期)目標建議(後述)は、2035年までに1人当たりGDPを「中等発達国家」(※2)並みにするとの目標を掲げた。中国の1人当たりGDPは2019、20年と1万米ドルの大台を超えたが、5中全会で習氏は「2035年までにGDPまたは1人当たり収入を倍増することは完全に可能」と発言し、建議報告会で事務方の韓文秀党中央財経委員会弁公室副主任は「2035年倍増に必要な年平均成長率は潜在成長率より若干低い4.73%。次期規画期間中の年平均5〜6%成長は実現可能」と説明している。

 

(※2)中国百度(バイドゥー)百科によれば、G7などの先進国と途上国の間の水準の経済体で、旧東欧諸国、バルト三国、ギリシャ、ポルトガルなど。1人当たりGDPの具体的水準としては、2019年価格で1.8万〜2.4万米ドル(2020年11月2日付第一財経)、1.5万〜2万米ドル(2020年10月30日付新浪財経)など見方に幅がある。

 

中国人民大学の計算では、厳密には、4.73%は1人当たりGDP年平均成長率で、一定の人口増を仮定すると(2035年人口14.335億人、2020年比0.63%増)、GDPベースでは4.78%が必要となる。2035年にかけて成長率は次第に減速するという一般的な見方、上記北京市や上海市の規画を勘案すると、最終的に規画で数値目標が提示される場合、その水準は4.78%より若干高い5%程度が目安になろう。

 

なお中国人民大学の潜在成長率予測では、楽観的シナリオでも2020〜35年の年平均GDP成長率は4.36%、2035年1人当たりGDPは2020年比1.87倍に止まり、相当大胆な構造改革やイノベーションがなければ、2035年倍増目標を実現することは難しい。

 

出所:2020年11月12日付「新浪財経専欄」
[図表3]2020〜35年GDP潜在成長率(中国人民大学予測) 出所:2020年11月12日付「新浪財経専欄」

 

以降は、発改委が2018年末に発表した「第13次5ヵ年規画実施中期評価」で、進捗が遅れているとされていた指標をフォローするとともに、環境対策関連に焦点を当て、それらの第14次規画へのインプリケーションを考える。

 

 

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