「色覚異常」というと、色がまったく認識できないというイメージがあるかもしれません。しかし実際に色の判別が困難な人はごく少数で、大半が色を判別しづらいという軽度な症状です。先天的な場合、本人にとっては「生まれながらの色覚」が当たり前であるため、自覚に至ることは極めて困難です。しかし無自覚こそが一番危険であることをご存じでしょうか。本人も周囲も気づかない「色覚異常」の実態を解説。

2003年以降「色覚異常に気付いていない人」が急増

たとえば、わが子が小学校でチューリップの絵を描いた時に、植木鉢を緑に、葉っぱを茶色に塗って帰ってきたとしたら親はどう思うでしょうか。きっと驚き、その理由を聞くはずです。

 

もしそこでわが子が先天色覚異常であったなら、子どもの答えは非常に要領を得ないものになります。なぜなら子どもにとっては、生まれてからずっと絵に描いたように見えているため、どこをどう間違ったのかがわからないからです。

 

1994年まで、色覚異常の検査は小中学校で実施されていました。しかし、当時色覚異常を色盲と呼んでいたこともあり、不必要な社会制限も多くありました。そのため、差別やいじめにつながるのではないかという意見が多く、2003年に検査が廃止されたのです。

 

そのため、ほとんどの人が自分が先天色覚異常だということを知らないまま大人になるようになりました。

 

実際には、日本人男性の5%、女性の0.2%が先天色覚異常だと推計され、男性であれば20人に1人という発症率です。確率的には小学校のクラス(公立なら40人)に1人は、先天色覚異常の人がいることになり、特に珍しい症状ではないのですが、検査をしないことで本人の自覚がないまま日常生活を送っています。

学校生活や就労…自覚なく強いられる「不自由な生活」

しかし色覚異常を抱える人は、黒板の文字が見えづらい、掲示板の色分けされた連絡事項を見逃してしまうなど不自由な生活を自覚せずに強いられます。そして自分なりに見え方の違いを習得して日常生活を送っているのです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

また、本人の努力により不自由なく生活をしているように見えていても、人生の大事な局面、特に進学や就職の際に自分の色覚異常を認識していないと、自分に合わない道を選んでしまうなどして、大切な人生を台無しにしてしまうことにもなりかねません。

 

たとえば、エンジニアを目指して工業高校に進学した場合、電子回路を作成するのに赤と緑の配線の区別がつきにくければどうでしょう。他の子どもよりも努力をしなければなりません。たとえば実技試験などで会場が暗いなどコンディションが悪ければ判別がより一層しにくくなってしまいます。

 

また、就職の際に自分の色覚について気づかずに、色彩の判別が重要な職場に就職できたとしても、大変苦労する可能性が高いのです。

 

実際に2013年の調査では、色覚異常の子どもの6人に1人が進学・就職時期に「色覚異常」が発覚し、それが原因で進路の断念などのトラブルを経験していることがわかりました。

 

このように、成績で劣等感を抱いたり、職場でハンディキャップを抱えてしまう理由が、実は先天的なもので、それに気づけないことで進路を断念するなど、挫折を味わったり、人生の選択肢が減ってしまったりすることはとても不幸なことです。そのため2016年4月より小学校で任意の色覚検査が奨励されることとなりました。

職業選択だけではない…これだけある「生活上の危険」

また幸いにして、色に関係する進路を選ばない人でも、色覚異常の人にとって、日常生活の中には多くの危険が潜んでいます。

 

色によって何かの情報を示すことは社会での約束事ですが、一般的に公共物などのサインや警告灯などには、赤と緑が多用されます。

 

なぜなら、色覚が正常な人にとっては赤と緑は「反対色」と呼ばれるいわば両極端の色であり、はっきりと違いがわかるため、「赤」は危険、「緑」は安全というイメージでいろいろな目印としてよく使われています。

 

これは、色覚が正常な人が社会での多数派であるため仕方のないことですが、色覚が正常な人にわかりやすい色が選ばれています。しかし、先天色覚異常に多い「赤緑色覚異常」の人にとっては、この2色はほとんど同じ色に見えてしまいます【⇒「見え方の違いシミュレーション」を見る】

 

先天色覚異常の人は、経験値の中で判断していますが、海外などのなじみの薄い場所や、見慣れない表示の場合、判別できずにトラブルに巻き込まれるリスクを抱えているのです。これも、自分が赤緑色覚異常だと自覚していれば、注意したり他の人に確認するなどして回避することができますが、「自覚していない」ことが危険なのです。

気づくきっかけになる「日常の些細な違和感」

唯一、色に対する感覚がほとんどない杆体(かんたい)1色覚の場合は、同時に視力自体も生活に支障をきたすほど極端に悪いため、目の検査などで早い段階で問題を抱えていることがわかります。

 

しかし、それ以外ほとんどの先天色覚異常の人は多くの場合、自分もその親も病名がわからないまま生活を送り続けます。なぜなら、先天色覚異常の人は生まれた時から自分にとっては、自分の見えている世界が当たり前だからです。

 

「何かがおかしい」「人とは違うかも」と感じつつも、その違和感が色覚異常であることまでにはたどり着きません。

 

しかし、本人は発信していなくても、日常生活の中では不自由なことが多くあります。社会の中で、多用されている識別表示が色覚異常の人の立場で世界を見れば、これほどわかりづらい色はありません。なぜなら、色覚の異常が強いほど、赤と緑を区別することが難しくなるからです。

 

このような社会的背景もあって、色覚異常の人は社会生活や仕事の上で、しばしばトラブルを抱えることがあります。その原因ともなりうる、色覚異常のわかりやすい例を挙げてみましょう。

 

●黒板に書かれた赤いチョークの文字が見づらい

 

●肉がよく焼けているかどうかわからない

●レタスの葉で傷んでいる部分がわからない

●充電のLEDの色に赤と緑があることを知らなかった

●尿路結石による血尿に気が付かなかった

●トイレのマークが黒と赤や、青とピンクという色で、形も似ていると、わかりづらい

 

色覚異常は時に命に関わる危機を見逃してしまう可能性があり、早急な対策が必要です。自分自身の色覚について知らないままでいると、当然信号灯にも注意を払うこともできず、結果として大きな事故に巻き込まれてしまう危険があるのです。

 

わが子の色覚異常に気づくきっかけは、日常の些細な違和感からです。違う色の靴下を片方ずつはいたり、まだ青いいちごをつまんだり、手や顔に泥がついても平気だったりするなどです。

 

ですが、そうした間違いも、たいていはおちつきがない、おっちょこちょいなどと安易に判断してしまいがちです。しかし、実際にはわが子の目に映る世界を理解し、その子にわかりやすい様な生活上の注意を払ってあげることが大切です。

 

 

市川 一夫

日本眼科学会認定専門医・認定指導医、医学博士

 

 

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    ※本連載は市川一夫氏の著書『知られざる色覚異常の真実』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

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