灘高→東大理Ⅲ→東大医学部卒。それは、日本の偏差値トップの子どもだけが許された、誰もがうらやむ超・エリートコースである。しかし、東大医学部卒の医師が、名医や素晴らしい研究者となり、成功した人生を歩むとは限らないのも事実。自らが灘高、東大医学部卒業した精神科医の和田秀樹氏と、医療問題を抉り続ける気鋭の医療ジャーナリストの鳥集徹氏が「東大医学部」について語る。本連載は和田秀樹・鳥集徹著『東大医学部』(ブックマン社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

理系のOBは、灘同士でつるんだりはしていない

鳥集 そんな現状を嘆く和田さんも、まさにエリートコースだったわけです。その灘の同質性についてうかがいたいのですが、灘中あるいは灘高から東大理Ⅲまでずっと同じ学舎に通った仲間、竹馬の友とは言わずとも、同じ価値観で育てられたエリート集団は、大学を卒業してからも、ずっとそういうつながりが維持されていくのではないですか?

 

和田 本来なら、維持されていくものでしょう。10年以上も同じ学舎で同じものを見て、同じ授業を受けるわけですからね。でも灘の場合、大人になってもその同質性を保とうとするのは、どちらかといえば文系のほうだと思います。

 

今思えば、高校の同窓会を頻繁に企画するのも、勝谷誠彦氏とか、オウム事件の弁護士をして有名になった伊藤芳朗*氏などでした。伊藤氏は、最初は堅物の左翼系弁護士だったんだけど、オウム事件で有名になって以降はミーハーな感じになって、今は美容外科業界の顧問弁護士をやっているはずです。その二人が同窓会を頻繁に企画していたけど、理系のOBというのは、比較的、灘同士でつるんだりはしていませんね。

 

そうそう、灘高時代、僕の学年で、ダントツでトップの男子学生がいました。彼は天文学者になりたいという夢を持っていました。天文学者になるには、東大で言えば、理Ⅰを目指せばいいのです。東大出身の優秀な天文学者*はたくさんいます。

 

しかし、彼は東大理Ⅰを受けると言ったら、灘高の進路指導の先生に、「もったいないからとにかく理Ⅲに行けと。理Ⅲから理学部に入ることもできるんだから」と、うるさく言われたようです。彼がその説得に屈することなく、というか嫌になったのでしょう。急に文転*して、東大法学部を目指すと言い出したのです。理Ⅰよりも、文Ⅰのほうが合格最低点も低いですしね。

 

それで彼は余裕ができたのか、高校3年生のときには、受験勉強をろくにせずにラテン語と天文学を独学で勉強していましたよ。確か、そんな理由で文転するなんて可哀想だと思ったこともありました。でも、結果的に、私の同期で在学中に司法試験に合格したのは、彼だけだったのです。彼の名は西川知一郎*といって、裁判官として今も活躍しています。ときどきおかしな判決だと言われて、『週刊文春』に叩かれてましたけどね。

 

伊藤芳朗
いとう よしろう。灘高卒、1985年東京大学法学部卒。弁護士。
綾瀬女子高生コンクリート事件などの少年事件、坂本堤弁護士一家殺害事件などオウム関連事件を手がける。著書に『「少年A」の告白』(小学館)、『ボクが弁護士になった理由』(教育資料出版会)など。

東大出身の優秀な天文学者
東京大学理学部、または理学部大学院を卒業した天文学者は、安藤裕康(あんどう ひろやす)、岡村定矩(おかむら さだのり)、戸谷友則(とたに とものり)、嶋作一大(しまさく かずひろ)、大内正己(おおうち まさみ)、阪本成一(さかもと せいいち)、海老沢研(えびさわ けん)ら。

文転
理系から文系へ転向すること。高校では理系のクラスにいる人が文系学科を受験するという意味でも使う。

西川知一郎
にしかわ ともいちろう。灘高卒、東京大学法学部卒。裁判官。
2016 年に、九州電力川内原発1、2号機をめぐり、周辺住民らが運転差し止めを求めた裁判で、福岡高裁宮崎支部裁判長だった西川氏は、原子力規制委員会が策定した原発の新規制基準について「最新の科学的技術的知見を踏まえたもので、何ら不合理な点はない」として住民側の抗告を棄却したことで知られる。

 

鳥集 灘高ほどレベルの高い学校でも、「君は成績がいいから理Ⅰじゃなくて理Ⅲを受けなさい」と指導されることがあるのですか? その子が明確な将来の夢を持っていたとしても? なんだか本末転倒な感じもしますね。

 

和田秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック院長 精神科医

 

鳥集徹著
ジャーナリスト

 

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