灘高→東大理Ⅲ→東大医学部卒。それは、日本の偏差値トップの子どもだけが許された、誰もがうらやむ超・エリートコースである。しかし、東大医学部卒の医師が、名医や素晴らしい研究者となり、成功した人生を歩むとは限らないのも事実。自らが灘高、東大医学部卒業した精神科医の和田秀樹氏と、医療問題を抉り続ける気鋭の医療ジャーナリストの鳥集徹氏が「東大医学部」について語る。本連載は和田秀樹・鳥集徹著『東大医学部』(ブックマン社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

多浪の原因は能力特性に合わせた対策をしないから

鳥集 確かに、灘やラ・サールのような名門よりも、地方の公立高校からポッと合格した一匹狼的な東大生のほうが、自力で人生を切り拓ける力を身につけている気がします。鉄緑会のような有名塾に行って、そういう詰め込み式で死ぬほど勉強して入ってくる受験生を集めるよりも、なんか地方からポッと出てきてしまったような、自分で解法を持って、自分の勉強法を習得した子に東大医学部に入ってほしいと和田さんもお考えではないですか?

 

和田 そうです。そういう人を選んだほうが、医者になったときに応用が利くわけです。もちろん地方出身でも、先生の言いなりで一生懸命勉強して理Ⅲに入る奴はつまらないでしょう。まあこれは医学部に限ったことではないでしょうが、上から言われたことだけを一生懸命やって大人になった人は、先ほども申し上げた通り、応用が利かない。だから、せめて大学では応用を利かせるような授業をやればいいのに、今、そういうことができる先生が東大医学部にはほとんどいない、というか私の知る限りいなくなってしまいましたよね。そういう人のほうが、教授にとっては何でも言いなりになってくれるので都合がいいわけですが。

 

鳥集 そこに、東大が医学部生をスポイルしてしまっている何かがある、とお考えですね? 今の受験状況を見ていると、エリート大学に入るには、まずは中高一貫校に合格しなくてはいけない。そして、通常は6年間で学ぶカリキュラムを5年で終えて、高3の1年間は受験勉強だけに集中する。また、開成や筑駒に合格すれば、鉄緑会に通えるチケットも手に入る。そういう決められたレールが敷かれているわけです。

 

東大理Ⅲは、理Ⅰ、理Ⅱよりも比較的、現役合格率が毎年高いのも特徴です。2020年度の理Ⅲの志願者のうち現役生は4割なのですが、合格者はほぼ7割が現役生です。浪人すると、理Ⅲはさらに狭き門となります。 

 

和田 受験科目も少なく、大学ごとに入試傾向もはっきりしている医学部に何度も浪人するのは、受験生本人の学力とか知的レベルの問題というより、教える側が個人個人の能力特性や志望校に合わせた対策をやらない、あるいはきちんとした受験テクニックの指導をしないせいだとも考えられますね。

 

ただ、違う見方をすれば、勉強法が稚拙なために何回も浪人して医学部を受験している子は、それだけ、「医師になりたい」という意欲が高い、今どき珍しい子だとも考えられるわけです。

 

 

 

鳥集 頭がいいから、という理由だけで漠然と医学部を目指しているわけではないということですね。

 

和田 もちろん、開業医の子どもなど、親に「何回落ちてもいいから、絶対に理Ⅲに入れ!」というプレッシャーのために多浪している人も、なかにはいるでしょうがね。それにつけても、上から言われた通りの勉強をし、塾のやり方についていける子が東大理Ⅲに入る。それができない子は、東大の別の学部に入り、それもできない子は鉄緑会にお金を納め続けて、大切な時期に自己評価を下げている。これは大きな問題ですよ。

 

世界的に見て、今、日本の子どもは圧倒的に自己評価が低いことが知られています。文科省もよく引用しているデータですが、「自分はダメな人間だと思うことがある」にYESと答えている日本の高校生が72%もいることがわかっています。中国で56%、若者の自殺が社会問題になっている韓国ですら35%ですよ。

 

鳥集 そして、「名門の中高一貫校から鉄緑会に行って、東大に入る」というエリートコース以外の選択肢が、昔よりもさらに狭くなっている。

 

和田 確実に少なくなっています。灘高生も、関西の鉄緑会に大勢入っているのが現状です。

 

次ページ理系のOBは、灘同士でつるんだりはしていない
東大医学部

東大医学部

和田 秀樹 鳥集 徹

ブックマン社

灘高→東大理Ⅲ→東大医学部卒。それは、日本の偏差値トップの子どもだけが許された、誰もがうらやむ超・エリートコースである。しかし、東大医学部卒の医師が、名医や素晴らしい研究者となり、成功した人生を歩むとは限らない…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録