相続発生時、遺言や遺書の有効性についてトラブルが発生するケースが多発しています。知識を身につけ、もしもの時に備えましょう。今回は事例から、親が支払った学費の差額は相続に影響するのか、見ていきましょう。

資料を貰えず、「金額算定」だけができないケースも…

他方で、本件のように、ある程度生前贈与(特別受益)について、概括的な事実関係は認められるものの、援助を受けた側が審理に協力しない、資料を提出しないためにその具体的な金額の算定だけができない、というケースもあります。

 

本件は、札幌高等裁判所平成14年4月26日決定をモチーフにした事例ですが、この事例では、相続人の1人だけが被相続人から学費・生活費の援助を受けていたことは明らかであったものの、援助を受けていた相続人が資料の提出や家裁調査官からの調査に協力しなかったという事例です。

 

そのために、具体的な生前贈与の金額の算定ができなかったわけですが、この事例で、裁判所は、

 

「援助を受けた者が、調査に非協力なために具体的な金額が算定できないことを理由に特別受益を否定することは相当ではない」

 

と判断し、特別受益の証明責任を緩和するような判断をしました。

 

実際の調停・審判実務でここまで公平性に踏み込んで判断してもらえることはなかなか難しく、基本的には原則どおり「特別受益はそれを主張する者が全て証明しなければならない」という形で審理が進んでいくことも多いのが実情ですが、いわゆる「逃げ得」は許されない場合もある、ということを示す1つの判断として参考になります。

【判決要旨】札幌高等裁判所平成14年4月26日決定

「抗告人X1の特別受益についての判断において、抗告人X1が昭和40年4月にb大学に進学し、昭和44年3月に卒業したこと、その入学金・授業料・下宿代を含む生活費については両親である被相続人夫婦が負担したこと、

 

抗告人X2は、中学を卒業した後、家業の農業に従事し続けていたこと、

 

相手方Y(以下「相手方Y」という)は、抗告人X1の大学生時代に、被相続人に対し、実家への援助として、当時の相手方Yの給料収入月額約1万9800円のうち1万円を渡していたこと等の認定事実に基づいて、抗告人X1には、大学進学について特別受益が認められる旨判示しながら、その具体的な算定について、抗告人X1が資料を提出せず、家庭裁判所調査官の調査にも応じないことを理由として、抗告人X1の特別受益については本件遺産分割において考慮しない旨判示する。

 

しかし、抗告人X1について認められる特別受益を、その判断によって不利益を被る抗告人X1の非協力を理由に算定しないというのは相当でない(昭和40年当時の大学入学金、一般的下宿費用等を大学への照会その他適宜の方法によって調査すること及びそれに基づいて消費者物価指数の変動等を考慮して特別受益の現価を算定することは抗告人X1の協力なくして行うことができる。)。


以上のとおり、原審は、本件遺産の分割の対象となる財産の範囲についての判断を誤り、遺産分割の判断過程において考慮されるべき特別受益の算定を行うことなく、遺産分割の審判をしたもので、原審判は、取消しを免れない。

 

 

※本記事は、北村亮典氏監修のHP「相続・離婚法律相談」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

 

 

北村 亮典

こすぎ法律事務所弁護士

 

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