コロナ禍で苦境に立たされている中小企業。再生するには、「客観的なデータ」に基づいて戦略を立てることが重要です。今回はコロナ禍における地域の実情の見方と、自社の資金繰りの見方について説明していきます。※本連載では、企業再生のスペシャリストである坂本利秋氏が、中小企業が経営難を乗り切る方法を解説していきます。

再生企業で最も重視すべき指標は「ネット借入金」

2021年に入り、企業再生の相談が増えてきました。次に経営が苦しくなった中小企業経営者との面談時によくある光景を紹介します。

 

「決算書を見てください。ちゃんと利益を出しているんですよ。粗利率も業界平均よりも高いはずです。でも毎期、現金が減っていく一方なんだよなあ」

 

「おかしいですね、とりあえず3期分の決算書を見せてください」

 

この場合は、筆者が最初に見るのは、「ネット借入金」の推移です。

 

ネット借入金=借入金-現預金

 

このネット借入金が、困窮状態にある中小企業の実力を最も正確に示す指標です。
その理由は、不適切な会計処理の影響を受けないためです。具体例を挙げましょう。

 

【1】経費として計上すべき外注費2,000万円を資産計上した

 

この処理により、損益は2,000万円よくなり、同時に2,000万円の資産が増えます。不適切な会計処理で損益の見栄えはよくなりましたが、借入金、現預金に一切変化はありません。つまり、ネット借入金は不適切な会計処理の影響を受けていません。

 

【2】架空の売上高2,000万円を計上してしまった

 

これも損益は2,000万円よくなり、売掛金2,000万円の資産が増えます。この場合も、ネット借入金に変動はありません。

 

案の定、先ほどの企業も見かけ上の利益は計上されていましたが、ネット借入金は悪化する一方でした。

 

企業再生ステージにあり、さらに会計に明るくない経営者は、最重要経営指標としてネット借入金を追いかけてください。この指標の改善により、収益力がアップしたと考えることができます。筆者も企業再生支援をする場合、最も重視する経営指標です。

 

なお、設備投資を行った場合には適切な会計処理をしても、確かにネット借入金は悪化します。しかし、そもそも再生ステージある企業は新規の投資はできませんので、このようなケースを心配する必要はありません。

 

では、損益計算書では利益が出ているものの、ネット借入金が悪化しているとします。この場合、不適切な会計が疑われますが、どのように理由を突き止めればよいでしょうか?

 

簡単にできて効果が高い実践的な方法は、3期分の貸借対照表の比較です。

 

資産を順に確認していくと、不自然に急増した、もしくは増え続けている科目が見つかるはずです。今度はその科目の内訳を見ていけば、適切に増えたのか、不適切に増えたのがわかります。具体例を挙げましょう。

 

【1】売上高は3期でほぼ横ばいの推移なのに売掛金が増え続けている。内訳を見ると、同じ相手先で同じ金額が3期連続で計上されていた。回収見込みのない売掛金がそのまま残っているのが原因と思われます。

 

【2】2期前に多額のソフトウエア仮勘定が突如現れ、現在も仮勘定のまま残っている。システムのメンテナンス費用などを無理やりソフトウエア仮勘定で計上するなどが考えられます。

 

通常、ソフトウエア仮勘定は完成したタイミングでソフトウエアとなり、償却を開始します。実態がないためソフトウエアで計上することもできず、何期も仮勘定で放置する企業も多くあります。

 

このように3期分の貸借対照表を比較していくと、無理に作った資産があぶり出されます。簡単な手法ではありますが、企業再生の実務を行う筆者も利用するほど実践的なものです。

 

上手に不適切な会計処理をしたぞ、と内心考えている経営者も、3期分を一度比較をしてみてください。隠したつもりが、丸見えかもしれません。

 

 

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