灘高→東大理Ⅲ→東大医学部卒。それは、日本の偏差値トップの子どもだけが許された、誰もがうらやむ超・エリートコースである。しかし、東大医学部卒の医師が、名医や素晴らしい研究者となり、成功した人生を歩むとは限らないのも事実。自らが灘高、東大医学部卒業した精神科医の和田秀樹氏と、医療問題を抉り続ける気鋭の医療ジャーナリストの鳥集徹氏が「東大医学部」について語る。本連載は和田秀樹・鳥集徹著『東大医学部』(ブックマン社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

灘で落ちこぼれると這い上がるのは容易ではない

鳥集 確かに、数学に限らず、受験勉強の多くは、暗記を強いられます。しかし、なぜ和田さんは、精神科医が本業でありながら、大学受験の暗記数学を提唱することになったのですか?

 

和田 昨今は、認知心理学*の進歩によって、脳の情報処理のプロセスが解明されつつあり、「知識の暗記」の重要性が再認識されるようになってきました。認知心理学では、人間の思考を「既存の知識を使って推論すること」と定義しています。これは、受験勉強に置き換えたなら、「解法パターンを暗記し、それらを使って問題を解く」暗記数学そのものではないでしょうか。

 

認知心理学
人間の知る「機能」と「メカニズム」の解明を目指した、科学的・基礎的心理学の一分野のこと。1950 年代まで主流だった、客観的な観察に基づく行動主義的心理学への反動から生まれた。コンピュータの進歩に伴う「情報」の概念の導入とともに、通信工学、言語学、神経科学などの影響を受け、心の内部のメカニズムを直接的に論じ、解明しようとするもの。

 

「模範解答を先に見て、その解法を覚える」。それが、暗記数学の具体的なやり方だという。
「模範解答を先に見て、その解法を覚える」。それが、暗記数学の具体的なやり方だという。

 

鳥集 一昔前までは、わからない問題を前に、長い時間をかけて考えることが大切であり、それで知力や思考力が鍛えられるとされていましたが、必ずしもそうではないということですね。

 

和田 脳科学においても、難しい問題を前にウンウン唸うなっているときには、脳がたいして活性化していないという報告もあります。「机にかじりついて考えれば考えるほど思考力がつく」というのは、スポ根的、旧時代的な発想です。

 

私は、勉強は努力に比例するという考え方があまり好きではありません。よく、3000時間を受験勉強に費やせば東大に合格できると言われているようですが、私はその半分くらいでいいのではないかと思っています。言い方は悪いけれど、アホみたいに時間をかけて勉強して東大に合格した人は、その後の人生でも、やり方を変えず、上から言われた通りにやるので、忖度官僚のようになってしまうと思っています。

 

私が精神科医の傍ら、受験アドバイザーとしてこの30年近く言い続けてきたのは、「受験において考える力というのは、目の前にある難しい問題を解く力ではなく、その問題が解けなくても、どうやって受かるかを考える力」だということです。

 

人間というのは、いい点を取ると自己評価が上がり、さらに人生の高みを目指せるものなのです。どんどんよいスパイラルが生まれる。しかし点数が上がらなければ、自己評価も低いままで、負のスパイラルに飲み込まれてしまう。すべからく考え方の問題です。人生が上手くいっている人は、上手くいく考え方が習慣になっています。逆もまた同様です。最近では、認知療法という、ものの見方を変える治療が精神科の臨床でも盛んに行われますが、これはまったく同じ考え方だと思っています。

 

そうした理由から、精神科医になった後、私は多くの戦術的学習参考書を書いてきました。しかし、それらの本が書けたのは、私が灘校で過ごしたことも間違いなく影響しています。

 

鳥集 和田さんが暗記数学に目覚めた経緯を、もう少し詳しくお話ししてください。

 

和田 灘のような進学校で落ちこぼれると、そこから這い上がるのは容易ではありません。授業の進度がかなり速く、トップとの差があまりにもつき過ぎているからです。

 

私も、小学生までは常に算数の天才と言われていたのに、灘校に入った途端、数学の授業のほとんどがちんぷんかんぷんになりました。宿題をやろうにも、1題を解くのに1時間はかかりました。いくら考えても、解けないこともよくありました。

 

しかし、灘の優等生はものの10分か15分で解いてしまいます。そのときに気がついたのです。今後、彼ら優等生と同じように勉強していても、永遠に追いつくことは不可能だと。

 

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