灘高→東大理Ⅲ→東大医学部卒。それは、日本の偏差値トップの子どもだけが許された、誰もがうらやむ超・エリートコースである。しかし、東大医学部卒の医師が、名医や素晴らしい研究者となり、成功した人生を歩むとは限らないのも事実。自らが灘高、東大医学部卒業した精神科医の和田秀樹氏と、医療問題を抉り続ける気鋭の医療ジャーナリストの鳥集徹氏が「東大医学部」について語る。本連載は和田秀樹・鳥集徹著『東大医学部』(ブックマン社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

優等生のノートのコピーが飛ぶように売れる

鳥集 灘の優等生と同じ時間勉強しているだけでは、どんどん差が開いていくということですよね。

 

和田 私が1日に6時間勉強して、5~6題解いているうちに、優等生は30題くらい軽く解いてしまうわけですからね。毎日、差が開くばかりです。そんな状況に焦っていたのは、何も私だけではありません。灘にはいろいろな意味で賢い生徒がたくさんいました。どうにかして成績を上げようと、先生に言われるままではなく、自分たちで勉強法を編み出していったのです。そんな状況を見て、一儲けしようと企む生徒も出てきます。

 

鳥集 同級生のあいだでお金のやり取りがあったのですか。

 

和田 そうなのです。つまり、優等生のノートを拝借して編集し、紙に書き直したものをコピーして、同級生に売りつけるヤツが出てきたんです。確か、ノート一冊500円でした。

 

それが校内で飛ぶように売れて、テスト直前になると、ヤツは月に5万円は儲かっていたはずです。当時の私のお小遣いが月5千円でしたから、彼の発想には脱帽ですよ。月に5万円あったら、好きなだけ映画が観られるのになあ!と羨ましくて仕方がなかったです。

 

鳥集 「模範解答屋」ですね! それはすごいなあ。そういう発想が高校生で自発的にできるというのが、ナニワ的であり、灘校的ですよね。

 

和田 模範解答屋をやっていた子は、決して優等生ではありません。数学の成績も、私と同じ程度か、もっと悪かったはずです。そもそも遊ぶお小遣いほしさに、そんなクラス内ビジネスを始めたわけですから……。

 

しかし彼自身、このビジネスを始めた途端に、テストで今まで取ったこともないような点数を叩き出したわけですよ。つまり彼は、優等生のノートを借りて、解答集を作るために手書きでせっせと書き写しているうちに、自然に解法を覚えていたわけです。驚愕しました。

 

そんな彼を見て、私は藁をも掴む思いで、その模範解答に飛びつきました。悔しかったけれども(笑)。つまり私が、暗記数学に開眼したのは、この模範解答屋のおかげでもあるのです。「目の前の問題を解けるまで考える」のではなく、「模範解答を先に見て、その解法を覚える」。それが、暗記数学の具体的なやり方です。

 

そして、もしテスト本番で自分の知らない解法が出たときは、その問題は最初からあきらめて、解法を知っている問題からとりかかります。一つ目の解法がダメでも、やり方をたくさん知っていると、別の解法が試せます。それが、私が受験生に教えている〈戦術的合格術〉数学勉強法なのです。

 

鳥集 しかし、それはそもそも灘高生だからできるやり方ではないですか。たとえ偏差値がそれほど高くなくとも、誰でも身につけられる〈戦術的合格術〉というのが、理論的にあり得るのでしょうか?

 

和田 苦手な科目があっても、なんとか合格ラインに到達しようというやり方は、偏差値に関係なくできる方法だと思いますよ。断言することはできませんが、東大に入るためには模試で1番じゃなければいけないとか、1点も落としてはいけないと思い込んでいる高校生が多いのです。

 

しかし私は、灘高にいたおかげで、「440点満点で150点落としても理Ⅲに合格できる」と考えることが、受験当時からできていたのです。多くの受験生は、戦術を知らないだけで、頭が悪いわけではないと私は思っています。知っている人が全受験生の1割もいなければ、東大や京大、もしくはどこかの医学部にはもぐり込めるはずです。

 

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東大医学部

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和田 秀樹 鳥集 徹

ブックマン社

灘高→東大理Ⅲ→東大医学部卒。それは、日本の偏差値トップの子どもだけが許された、誰もがうらやむ超・エリートコースである。しかし、東大医学部卒の医師が、名医や素晴らしい研究者となり、成功した人生を歩むとは限らない…

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