病床の父から跡継ぎに認定され、財産のほとんどを受け継いだ長兄は、子どもができなかったことが原因で離婚し、その後、ひとり身のまま病死しました。相続人はきょうだいのみですが、不動産が大半で納税資金が不安なうえ、生まれてすぐ他家に養子に出され、他人も同然の弟の存在が気がかりです。どうしたら円満に遺産分割ができるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

取り分のなかった末弟に遺産分割を持ち掛けたところ…

遺言書には「不動産はすべて弘樹さんにその管理を任せ、相続させる」「現預金も弘樹さんに相続させる」「末弟には財産を分けない」との3点が明記されていました。妹にあたる由香里さんのお子さんたちについては、とくに記述はありませんでした。

 

中井さんは兄の自宅のすぐ近くに家を構えていますので、不動産管理はやはり適任だといえるでしょう。また、遺言書通りの相続を行うのであれば、弘樹さんが孝雄さんのすべての財産を相続することになります。

 

 

遺言の内容のまま中井さんひとりで全財産を相続してもよかったのですが、そのようなことをすれば、いままで親密に交流してきた、姉・由香里さんの子どもたちとの関係が壊れかねません。そのため、由香里さんのお子さんたちと自分とで、ほぼ半々くらいの割合で孝雄さんの遺産を分けることにしました。甥姪と話し合いを続けるうちに、なにも分けないつもりだった末弟の明さんにも、せっかくだから現金を数百万円程度分けることにしました。

 

ところがです。この提案を受けた明さんから想定外の反撃を受けることになりました。分割が不平等すぎる、自分にも同等に分けるべきだというのです。遺産の内容を知り、あまりにも自分の取り分が少ないことに不満をあらわにし、大騒ぎをはじめました。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

暴れる末弟を前にあっけにとられてしまった中井さんと甥姪たちでしたが、我に返り、慌てて取り押さえてなんとかその場を収めました。口頭での説明だけではどうしようもなく、結局、孝雄さんの自筆の遺言書を見せることで納得してもらいました。それからしばらく事務的なやり取りを続け、遺産分割はようやく解決しました。

きょうだいからの相続は、相続税額「2割加算」の対象

しかし今度は、納税額についてまたひと山超える必要がありました。きょうだい間の相続には「相続税額の2割加算」に注意が必要です。通常の第1順位(子ども)と第2順位(親)の相続と異なり、第3順位にあたるきょうだいだけだと、確定した税額に2割を加算することになっています。

 

国税庁 No.4157 相続税額の2割加算

2 相続税額の2割加算の対象になる人

(1) 被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した人で、被相続人の配偶者、父母、子ではない人(例示:被相続人の兄弟姉妹や、おい、めいとして相続人となった人)

(2) 被相続人の養子として相続人となった人で、その被相続人の孫でもある人のうち、代襲相続人にはなっていない人

 

中井さんは銀行融資を受けて一括納税をしたいと考えましたが、銀行から融資はできないといわれてしまったため、とりあえず相続税の延納手続き(国税庁:No.4211 相続税の延納)をしました。

 

延納は申告時に手続きをして担保提供をすれば、返済が始まるのは1年後です。担保設定まで半年くらいの時間はあるので、その間に売却をしてしまえば、納税までの利息を払えばいいのです。

 

そこで、いちばん無理のない方法として、中井さんは甥姪たちと相談して別々の接道から区画を取り、最小限の土地を売却することにし、無事に相続税を納税することができました。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

 

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    本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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