専門性とともに医師の人間性、人柄を重視する
そうした雇用情勢の中で、医師はどのように転職サバイバルを生き抜けばいいのでしょうか。先ほども述べたように、病院側はいま専門性とともに医師の人間性、人柄を重視する傾向が強まっています。これは医療界に限らず、広く経済界を見渡しても、日本の雇用慣行では人間関係を大切にしています。この人間関係がこれからますます重要性を増してくると思います。
逆に専門性や手技、スキルだけを高めて人間関係をおろそかにすると、医師、ビジネスパーソンを問わず、今後は転職で苦労することになると思います。
人間関係を重んじるというのは、長い付き合いを大切にするということだけではなく、一期一会も含めて大切にする姿勢ということです。実際、私が目にする転職に成功している先生やビジネスパーソンは、特にコロナ禍で共通するのはこの1点だけです。先輩、後輩、恩師、さらには取引業者との関係が大切です。実際に製薬会社や医療機器メーカーなどの取引業者を通じて転職している医師は少なくありません。
取引業者はあちこちの病院に出入りしているので、経営状態など内情にも詳しい。医師の中には取引業者と一線を画したり、上から目線で接する方もいらっしゃいます。そういう先生には決していい話は巡ってきません。人間関係を大切にしている先生でなければ、今後、転職に成功して生き残っていくことは極めて困難になると明言しておきたいと思います。
さて、当連載でこれまで述べてきたように、医療産業は今後、経済のエンジンとして期待されています。その成功モデルとして米国のピッツバーグ大学医療センター(UPMC)の事例を紹介したように、これは日本だけでなく世界共通です。
要は、医療界や経済界という垣根がだんだんとなくなってきているのだと思います。実際、トヨタ自動車が東富士工場(静岡県裾野市)の跡地を利用して、未来型都市「WovenCity(ウーブン・シティ)」をつくる構想を明らかにしています。いわゆる「スマートシティ」ですが、自動車産業というビジネスだけでは早晩行き詰るであろうことをトヨタの経営陣は認識していて、その解決策の一つとして街づくりという視点から新たなビジネスモデルを築こうとしているのではないかと思います。
病院も高齢社会に対応できる「コンパクトシティ」のような街づくりをしていかなければならず、その点で自動車業界も病院業界も目指す方向性は同じです。特に地方の地域再生において、病院が街づくりの中核を担うのは重要な取り組みだと考えています。
日本の経済を立て直し、生産性を高めていくためには、東京一極集中を是正して、地方の活性化が非常に重要になります。私は長年、医師の転職を支援してきましたが、今後は医師のヘッドハンティングだけにとどまらず、そうした病院を中心とした地域の街づくり支援にも積極的にかかわってきたいと考えています。
(※本インタビューは、2020年12月27日に収録したもので
武元 康明
半蔵門パートナーズ 社長
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