Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

現代アートの魅力は「わからないから面白い」

わからないから面白い

 

現代アートは、事前に学習することなく、いきなり鑑賞してもすぐ理解できるものではありません。私でも、作品を見て評価に戸惑うことはよくあります。作品のコンテクストから推察して理解できる部分もあれば、わからない部分もある、それが正直なところです。

 

ただし、それをわかろうとするプロセスの楽しさが、現代アートの魅力ともいえます。「わからないから、つまらない」ではなく、「わからないから、面白い」のです。

 

そもそも観察した対象を「わかる」とは、どういうことを指すのでしょうか。

 

『みるわかる伝える』(講談社文庫)の著者、畑村洋太郎によれば、アートに限らず、すべての事象は、いくつかの要素が絡み合う形で、ある構造をつくり出しているといいます。

 

しかも、構造はひとつではなく複雑で、その中にも様々な要素が内包されている。その構造と要素のすべてを理解することは不可能です。10の要素のうちの4つしかわからない。それでも私たちは、それが「わかる」のかどうかを「自分の頭の中に持っている要素や構造と合致するかどうか」で、瞬時に判断しているのです。

 

人は4つの要素しかわからなかったとしても、それがある程度、自分の頭の中のテンプレートに重なれば、10の要素すべてを「わかった」ものとしてしまう。まだ、理解できていない6つの要素があるにもかかわらず、たった4つの要素だけで、思い込みにより判断してしまうのです。

 

ビジネスの場に限らず、そうした思い込みで対象を判断している段階では、対象物を正しく理解しているとはいえません。私たちはそのように「わかったつもり」でいろいろなものを判断している危険性があります。ビジネスシーンでも、伝える側と受け手の思い込みにより、情報が正確に伝達されないことは、よくあることかと思います。

 

現代アートを鑑賞していると「ここまではわかるけれど、そこから先はわからない」といったことがよく起こります。わかろうとする努力を続けているうちに「わからない」ことが「わかる」ようにもなるのです。

 

現代アートを鑑賞して「わかる」部分と「わからない」部分を整理して、「すべてがわかったわけではない」と考えて、では「わからない部分には、自分の知らない、なにがあるのか」を考えてみる。そうしたふうに思考を整理することができれば、あらゆる事象に対して謙虚に向き合うこともできるようになるのではないでしょうか。現代アートは、そうした思考の整理にも役立つに違いありません。

 

秋元 雄史
東京藝術大学大学美術館長・教授

 

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