こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

昔は車椅子に乗っている人を見かけなかった

あなたの仕事の一部が、ある日機械に取って代わられたとき、「これはスキルの問題だから」と過度に反応すれば、敗北感を味わうでしょう。しかし、「機械にできることは機械に任せて、自分はより良い公共の価値を生み出すんだ」という考え方に変え、より価値の高い仕事に専念するようになれば、機械があなたの仕事の一部分あるいは大部分を肩代わりしたとしても、あなたは自分の仕事に満足することができるでしょう。

 

なぜなら、あなたの仕事の結果が、公共の方向を向いているからです。「この仕事をすれば、社会や環境、経済にいい結果をもたらす。ある種の公共利益をもたらす」といったことを自分の価値の源にするべきなのです。

 

「公共の利益を達成する」という考え方と、自分と他人を比べてどちらが優れているかを判断しようとするのは、まったく異なる二つの概念です。隣の人よりも少し上手にできたことに達成感を求めるよりも、隣の人と協力して社会問題を解決することのほうが、私は喜びの度合いが大きいと思います。

 

もし人と比べることで達成感を求めていたら、ある日、機械のほうがあなたの十倍素晴らしくなっているかもしれません。するとあなたは不快になるでしょう。しかし、公共の価値を生み出すことに喜びを感じるように自分を再定義すると、同じことを行っていても機械が十倍の結果を出せば、十倍の公共価値が生まれたと思い、幸せを感じられると思います。私たちはそうした価値を重んじることが大切であり、競争原理に囚われる必要はないのです。

 

私が子供の頃、台湾では、車椅子に乗っている人をほとんど見かけることはありませんでした。車椅子に乗っている人が少なかったわけではありません。「外に出ると不便だから外出しない」といった理由で、家の近所の特定の場所にだけ出かけていたのです。しかし、現在の台湾社会では、バリアフリー設備やユニバーサルデザインを導入している建物が増えることで、車椅子で動き回る人を普通に見かけるようになりました。介助者に押してもらったり、自分で出かけたりと、非常に自然体で、どこにも障害物はないような印象さえ受けます。

 

私は、都市の設計を考える場合、「軽度の認知症の人に優しい街が最も良いのではないか」と思っています。そして、より多くの軽度認知症の人が社会活動に参加することで、軽度の人が中度あるいは重度の認知症にならないように予防することも可能になるでしょう。しかし、最初から軽度の認知症の人が参加しづらい社会であれば、当然そうした人たちの社会参加は大幅に減り、結果的に中度、重度の認知症のレベルに達する速度は間違いなく加速するでしょう。前者と後者でどちらがいいかは、言うまでもありません。

 

そのような誰もが社会参加しやすい社会を作るにはどうすればいいかと考えるとき、そこにAIが活用できるのであれば、「AIに自分の仕事を奪われる」といったことを心配する必要はなくなるでしょう。公共の利益に資するような方向を目指していけば、人間社会はより豊かなものになると思います。

 

オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

 

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

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オードリー・タン

プレジデント社

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