遺言は活かしつつ「問題の土地」についてだけ分割協議
筆者が提案したのは、きょうだいで共有するよう書かれていた他県の土地以外は、遺言書の内容で差し支えがないので、遺言書を執行することでした。しかし、他県の土地についての「子ども5人に均等に相続させる」とする記述内容では、納税等に不都合が生じます。
この不安を解消するには、該当の土地についてのみ、きょうだい全員で遺産分割協議を行い、全員が相続分に合わせ、無理なく相続税を払える割合で相続するか、もしくは、 佐野さん1人で相続し、売買代金から納税や諸費用を差し引いた残りを「代償金」としてほかのきょうだいに払うか、いずれかの方法に決めるのがいいのではないか、という提案をしました。
佐野さんはきょうだい全員と打ち合わせ、「佐野さんひとりが相続し、売却代金のなかから全員の相続税を支払い、残りを均等に分ける」方法を取ることにしました。
全員の合意もすぐ得られ、相続登記は速やかに終わりました。比較的面積の広かった該当の土地は、地元不動産会社から建て売り用地として購入の希望があり、相続評価以上の価格で売却することができました。ここまで申告期限に余裕をもって終えることができ、申告内容、納税金額にも不安がない状態で、つつがなく相続手続きは終了しました。
納税資金として売却する土地は、相続人代表が相続する
佐野さんは、父親の遺言を活かし、共有する土地だけ遺産分割協議をすればいいことを説明すると本当に安堵した様子で、長男を心配していたきょうだいの皆さんにも喜んでもらえました。
佐野さんのお父さんを中心に異母きょうだいたちが円満な関係を保ってきたこと、また、事前に公正証書遺言を準備されていたことから、お父さんの心遣いのきめ細かさや思慮深さが伝わってくるようでした。しかし、実務的な視点から申し上げるなら、遺言書作成時に、専門家が納税に関する部分の不安要素に気づけなかったことに問題があったといえるでしょう。
遺言があっても、相続人全員の合意があって遺産分割協議ができれば、遺言のとおりに分割しなくても構いません。遺言を活かしながら、一部の財産の分割内容を変えたいときは、その財産だけの分割協議書を作成して手続きすることができます。
また、納税のために売却する土地は、相続人の代表が相続して、ほかの相続人に代償金を払う方法が、売却や登記の手続きからみてスムーズだといえます。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
【関連記事】
税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
恐ろしい…銀行が「100万円を定期預金しませんか」と言うワケ
親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】