
実の親子同様に深い信頼関係を築いていた養父と義理の娘。実母亡きあとも親しく行き来していましたが、突然養父が亡くなったことで、とんでもないトラブルが持ち上がりました。社長業に忙殺されていた養父は、相続準備に着手できていませんでした。
深い信頼関係を築いてきた父親とは「義理の間柄」
最近では、子連れ再婚によって形成される「ステップファミリー」が増えてきました。かつての配偶者とどのような理由で離れたとしても、新しい人生に踏み出す人たちはみんな、希望を持って新しい家庭を築いていきます。
筆者が取り扱った事例のなかに、とても仲のよいステップファミリーのケースがあります。相談者の方がまだ幼いとき、母親は父親と別れて再婚しました。相談者は、母親の再婚相手である養父とすっかりなじみ、その後ずっと、実の親子同様の深い信頼関係を築いてきました。母親が亡くなり、自身が結婚して家庭を築いたあとも養父のそばに暮らし、身の回りの世話を焼いていましたが、養父が亡くなったタイミングで、弁護士とともに「実子」を名乗る人物が現れました。
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文京区在住の主婦・彩子さんは、近居の父親との間に血のつながりがありません。彩子さんが2歳のとき、母親は彩子さんの実の父親と離婚、その後再婚しました。彩子さんが父親として慕っているのは、現在の養父だけです。
彩子さんの母親と結婚した当初、養父は中堅企業の会社員でしたが、彩子さんが小学生のころに起業しました。事業は軌道に乗り、東京だけでなく、大阪、福岡にも支社を持つまでに成長し、生活も格段に裕福になりました。彩子さんの母親は、彩子さんが中学校を卒業する前に病死。彩子さんの母親にもそれなりの資産があり、幼いころから家族で暮らした家屋敷はすべて母方の祖父母から受け継いだものでした。
彩子さんは養父の惜しみない援助のもと、芸術系の大学院まで修了しました。数年間企業に勤めたあと、会社の同僚と結婚して退職し、以降は自宅でブックデザインの仕事をしながら、2人の娘を育てています。
彩子さん一家と養父の関係も良好で、彩子さん家族は車で10分程度のマンションに暮らしながら、頻繁に互いの家を行き来していました。彩子さんの2人の子どもたちも養父の援助で小学校から名門の私立に通い、何不自由なく生活していたのです。
子どもたちが高校生になり、彩子さんの手を離れるころ、70歳近くなった養父は長年の無理がたたったのか、目に見えて体力が衰えてきました。
「お父さんももう年だなぁ。すっかり体が弱ってしまって、先が見えてきたよ」
「なにいってるの。まだまだそんな年齢じゃないじゃない」
「そうかなぁ…」
