Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

グローバルで活躍する経営者は現代アートが好き

グローバルな現代アートが好きな日本の経営者たち

 

以前、金沢で開かれたシンポジウムでアートの専門家たちと盛り上がった話題があります。「国際的に活躍するビジネスパーソンは、なぜ現代アートを好むのか」ということでした。

 

実際に日本を飛び出して、海外を舞台に活躍している人ほど、現代アートに魅せられるようです。特に、欧米では質の高い美術館や博物館が揃っているため、それらを素直に感動して好きになるということがあるといいます。教養主義が欧米社会で生きているということもあるでしょう。海外で幼少期を過ごした人の中には、芸術文化に理解を示す人たちが大勢います。欧米社会では芸術1般の役割が社会の中に浸透しているため、ある程度の教育レベルを持っていれば日常生活の中でアートに親しみ楽しんでいるからです。

 

特に現代アートは、リベラルな人たちのファンが多く、現在の社会的な傾向であるグローバリズムの先頭に立ち、多様性を大切にしている人たちが多いのです。

 

例えば、大林組の会長、大林剛郎はスタンフォード大学大学院を出た国際派の経営者であり、ニューヨークのMoMAやパリのポンピドゥー・センターにも顔が利く現代アートの応援団です。DICグラフィックスの会長、川村喜久も同様に川村文化芸術振興財団を設立して芸術支援をする国際派の現代アートの応援団です。こういった経営者はグローバルな現代アートが好きなのです。

 

やはり国際的なフィールドで活躍している人たちは、日本という閉じた社会で守られているわけではなく、ある意味、ビジネスの荒野の中で生き抜いているわけです。そうしたボーダレスな国際性のようなものが、現代アートが持つ世界観に近いからかもしれません。

 

残念なことですが日本においては、今や世界のメインストリームにある現代アートがほぼ理解されていません。しかし、現代アートはスポーツに例えればサッカーのようにグローバルな展開をしています。「現代アートなんてマイナーなもの」などと考えていたら、世界のスタンダードから取り残されてしまうことになるでしょう。世界で戦うためのルールを知らなければ、グローバル化の波から取り残されてしまうやもしれません。

 

外務省が2017年に発表した旅券統計によると、日本人のパスポート保有率は約23.5パーセント。日本人の4人に1人しかパスポートを持っていない計算になります。これは先進国では最低水準で、日本人の海外渡航への関心度の低さが浮き彫りになっています。

 

心配なのは、多くの日本人が、それでも特に危機感を抱いているわけではないということです。グローバル化はこれからも加速度的に進んでいきます。そのような時代を生き抜くためには、グローバルな思考と行動が不可欠です。国境を越えて、地球規模で物事を考えることができないと、世界はもちろん日本でも活躍できる保証はありません。

 

現代アートを知るということは、世界のルールを知るということでもあります。ガラパゴス化した日本特有のルールしか知らなければ、世界で戦いようがないのです。閉じた日本の社会にいると、どうしても自分を主張することを避けるようになってしまいがちです。でも、それではアートを生み出すことも、破壊的イノベーションを起こすことも不可能です。

 

グローバルな思考を身につけることは、難しいことではありません。英語力や特別なスキルも不要です。あなた自身がそれを身につけようと決心し、閉じた世界から飛び出す行動を起こせばよいだけなのです。その目で世界を確かめてみてください。その1歩を踏み出すだけで世界は確実に変わっていきます。

 

秋元 雄史
東京藝術大学大学美術館長・教授

 

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秋元 雄史

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世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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