こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

仕事の品質や調整に責任を持つのは人間

本を作る場合、上手な編集者と下手な編集者の違いは、「一分間に何文字読めるか」ではなく、膨大な言葉の中から独自の視点を抽出し、その独自の視点で「記事全体に活力を感じさせることができるかどうか」でしょう。こうした仕事はAIにはどうすることもできません。段落ごとのポイント、使われる名詞や専門用語などをデータ化してラベルを貼っていく作業が進んでいけば、もしかするとAIにも優れた編集ができるようになる可能性はあります。

 

オードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)
オードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)

ただし、その場合でも、最終的な責任は判断した人間にあるのですから、こうした仕事は人間にしかできないと言っていいと思います。

 

私は翻訳が趣味なので、AIにどれだけの翻訳ができるのかに興味を持っています。たとえば、エンジニアリングに関する文書や法律関係の文書であれば、標準的な答えとなる翻訳があれば、現在の技術でAI翻訳は実現するでしょう。あるいはEU各国がそれぞれの言語で同時に発行するような法律文書の翻訳ならば、基礎資料が多いので標準答案が間違っている恐れはほとんどありませんから、AI翻訳は可能でしょう。

 

しかし、詩や小説などの文学作品になると、そうはいきません。人間が小説を外国語に翻訳するにしても、訳す人によって翻訳作品は少しずつ内容に違いが出てきます。こうした種類の翻訳は、ある意味では、もう一度創作していることと等しいからです。表面上は翻訳ですが、実際には創作です。それをAIによって自動翻訳を行うのは、まだまだ難しいでしょう。

 

AIはあくまでも人間を補助するツールである

 

繰り返しますが、今後、人間が行っていた中間的な仕事の大部分は、AIに任せることが可能になるでしょう。ただ、最終的に仕事の品質や調整に責任を持つのは人間です。これからは、こうした人間とAIの協力モデルが標準になっていくでしょう。

 

AIの目的は、あくまでも人間の補佐です。「AIの判断に従っていれば間違いない」ということでは決してありません。最終的な調整は人間が行わなくてはならず、責任は人間が負わなくてはならないのです。

 

これは「民主主義」のシステムと同じです。総統が言ったから、行政院長(日本でいえば首相)が言ったからといって、それが必ず正しいということではありません。彼らが間違ったことを言えば、私たちには言論の自由があるのですから、彼らの間違いを指摘し、より良い意見を提案することができます。総統や行政院長の地位が高いからといって「彼らの言うことは正しい」と鵜呑みにしてしまうのであれば、民主主義である意味はありません。それでは独裁体制と変わらなくなってしまいます。

 

私は幼い頃からコンピュータに親しんできました。私とコンピュータの関係は、ちょうどスティーブ・ジョブズの言った「精神的な自転車(Bicycle of Mind)」のようなものでした。つまり、人間は「自転車」というツール(道具)を使うことで、より遠くへ行くことができますし、山に登りたいのであれば、自転車(マウンテンバイク)は大きな手助けをしてくれます。しかし、これはツールである自転車のほうが人間より山登りが得意だという意味ではありません。自転車に山登りをさせるのであれば、登山の意味が失われてしまいます。

 

ツールの助けを借りて山に登ったり、山頂で写真を撮って帰ってくることができる。ここで重要なのはツールではなく、あなたが自分でどこへ行き、何をしたのか、です。

 

「道具を使えばもっと速く走れる」といっても、自分の代わりに道具を走らせれば良いという不合理な話にはならないでしょう。大切なのは、走るプロセスにあります。道具はそれを補助するものでしかありません。私はAIについても、そのように考えています。

 

オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

 

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