日本ではあまり馴染みがありませんが、欧米の富裕層の間では美術品が価値ある資産として扱われ、オークションなどを通じて、古いものであっても高値で取引きされています。アートコンサルタントの第一線で活躍する長柄発氏が、知られざるアートシーンを、自身の経験も交えて紹介していきます。第3回目のテーマは「贋作をめぐる攻防」。

オークションに贋作やコピーはあるが…

サザビーズやクリスティーズに持ち込まれる絵画には一定数の贋作やコピー作品がある。これを見破るのがエキスパートの仕事で、筆者もこれまでにも何度かポラロイド写真と掲載文献写真との差違を指摘し、事前に贋作やコピー作品をはねた経験がある。何万枚という絵画を見てきた各分野のエキスパートであれば怪しい要素は瞬時に見抜くものである。

 

これは基礎的な訓練で、アートディーラーを目指すのであればそれは必須である。1986年から2年間にわたり、筆者がサザビーズロンドンやニューヨークでインターン時代、リサーチャーとして毎日、実作品や時に持ち込まれた贋作を前に、文献でリサーチに明け暮れた時に体得したものである。キャンバスの作り、画用紙の違い、釘の打ち方、ピッチ(編み方)、絵具やメディウムの違い、使われた絵筆の種類、修復の痕跡、展覧会歴や来歴を示すシール、チョークやステンシルで裏面に書かれたオークション出品歴、ブロンズ作品の刻印など、チェックポイントは膨大である。

 

であるから、時々、「えいやっ!」と値段がつけられるテレビの「鑑定」番組などを見ると、「ホント、楽でいいなあ」とつぶやいてしまうのだ。国際的なスタンダードからして、あれは鑑定などではない。単なる“ゆる~い査定”である。

 

今回の事件をたとえると、元所有者を名乗る人物が取った行動は、目の前を走っていったクラウンが、自身から盗まれた盗難車だ、と言ったような安易で無責任な行為に近い。似ているだけでは確認したことにはならず、最低限、ナンバーやエンジンの型番を提示するなどしないと同一性の証明ができない。それがつまり、ブラッシュストロークの違いであり、コンディションレポートであり、修復歴である。実際、このルノワールには修復歴が見られたのであり、これも決定的な相違点となった。

サザビーズは支払いを凍結すべきだったのか?

ここでもう一つ大きな疑問が残る。果たしてサザビーズはこの取引への異議申し立てがあったときに支払いを凍結すべきであったか、という問題である。筆者もクリスティーズに在籍したときに支払い差し止めの異議申し立てを2度ほど経験したことがある。それらと比較してみよう。

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