日本ではあまり馴染みがありませんが、欧米の富裕層の間では美術品が価値ある資産として扱われ、オークションなどを通じて、古いものであっても高値で取引きされています。アートコンサルタントの第一線で活躍する長柄発氏が、知られざるアートシーンを、自身の経験も交えて紹介していきます。第3回目のテーマは「贋作をめぐる攻防」。

日本市場は贋作者のターゲットであった

1980年代から1990年にかけて、オークションを経由したものや、相対取引によって扱われ国内に流入したルノワール絵画、さらには重要な印象派近代絵画作品は相当数に上る。税関の統計によれば、1990年だけでも日本には4千億円の美術品が流入していたのだ。ここで一番の問題は、実は日本は贋作者たちのターゲットにされ、多くの贋作ルノワールが日本に流入したという事実であった。

 

通常の絵画取引で、鑑定書の写しだけが付属されている絵に真贋を確かめずに高額を支払うのは、絵の売買に経験豊富なコレクターである元所有者と名乗る人物の取った行動としては軽率であった。また鑑定書のオリジナルが届けられてないということも購入時の問題点であった。

 

さらに元所有者を名乗る人物が、自宅から盗まれたというルノワールとオークションに出品されたルノワール現物の確認を目視でしないで、このルノワールが自分の絵だと主張したことは極めて重大な過失である。

 

サザビーズに出品された絵画と元所有者を名乗る人物が所有していた絵画の同一性を、提訴前に確認できた可能性は十分にある。そこで筆者が試みたのは、この裁判の重要な論点である、この両者が提出したルノワールの絵画そのものの同一性のチェックであった。20年前に鑑定書代わりに資料に添付されていた紙焼き写真1枚と、実際のオークションカタログを拡大鏡で比較すればそれは容易であった。肉眼でもブラッシュストロークの違いは十分、判断できるものであり、その違いは明白であった。

 

また、今からさかのぼる事30年ほど前、このルノワールは当時、サザビーズで一度販売され、日本に持ち込まれていたのであった。つまり、比較対象になる絵画は実際には3点存在したのである。最初のオークションで販売された作品Aと、盗難にあった作品B、そして最後にロンドンで販売された作品Cである。これらを比較した結果、AとCが一致した。しかしながらBには多数の相違点が見られたのである。実際に赤丸を付けた箇所が筆者の指摘した筆致の相違箇所であり、これらの一連の資料を陳述書として裁判所に提出した。

 

また、作品Aは実際、日本人バイヤーが30年前に購入したものの、ある金融会社の担保として引き取られていた事実も裁判の中で明らかとなった。恐らくこれが巡り巡って作品Cとして再び国内市場に現れ、これを知人の美術商が購入したのである。

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