横浜市在住の資産家の夫婦は、独身の末っ子を跡継ぎと決め、着々と資産移転を行っていました。しかし、末っ子が末期がんであることが判明。不動産の多くをすでに子どもと共有名義にしています。子どもが先に亡くなれば、移転した資産を再び両親が相続することに…。どのような対策を取るべきでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

すでに贈与ずみの資産はどうしたら…?

佐藤さんご夫婦は相続を見据えて生前贈与を行っており、幸子さんはすでに一部の不動産を両親と共有名義にしています。配偶者・子どものない独身の幸子さんの相続人は両親です。そのため、幸子さんが先に亡くなり、相続税を支払って財産を親に戻すと、両親が亡くなって二人の姉が相続する段階で、また相続税を支払うことになります。それを避けるため、筆者は長女と次女に遺贈するよう提案しました。

 

 

佐藤さんご夫婦が訪れた数日後、筆者は急いで必要書類を集めてもらい、公正証書遺言を作るサポートを開始しました。幸子さんご本人は、入院・抗がん剤治療中にもかかわらず、非常に気丈な様子を見せ、立派でした。「親のほうが励まされています」とご夫婦が話されていたのがよくわかります。世の中、理不尽ではありますが、人の力ではどうにもならないことがあるのです。

公正証書遺言は、病院の病室でも作成可能

ご存じない方も多いのですが、公正証書遺言は公証人が出張し、病室等で作成することが可能です。病院やホスピス、老人ホームなどあちこちに出向いてサポートしてくれます。印鑑証明書や戸籍謄本、不動産の固定資産税納付書など必要書類が揃い、内容が決まれば、公証役場の原稿ができ次第ですが、翌日にも作成は可能です。

 

上述したとおり、配偶者や子のない単身者の相続人は両親になります。しかし、両親が幸子さんの財産を相続してしまうと、姉たちへ相続する段になってまた相続税が発生します。今回のように姉たちへ遺贈することにより、税金の二重払いが避けられます。しかし、相続人でない姉たちに財産を渡すには、遺言書が必要です。

 

筆者と筆者の会社のスタッフは、公証役場の公証人とともに佐藤さんご夫婦に付き添い、幸子さんの病室で遺言書作成に立ち会いました。両親と共有していた複数の不動産の名義を、長女、あるいは次女にすること、これまで働いて貯めてきた預貯金を姉たちにわけること、そして、愛用していた腕時計や、海外の旅行先で求めた思い出深いジュエリー類について、母親、長女、次女にどれを受け取ってほしいかなど、気丈に、しかし心を込めて言葉にする幸子さんの姿を見て、家族は泣き崩れました。筆者も涙をこらえきれず、顔を上げることができませんでした。

 

公正証書遺言書は、速やかに作成されました。それからしばらくのち、佐藤さんご夫婦から、幸子さんが静かに旅立っていったとご連絡をいただきました。末娘を見送ったご両親の胸のうちはいかばかりかと思われますが、人生には、人の力では抗えないことが起こります。佐藤さんご夫婦、そして幸子さんの2人のお姉さんには、どうか幸子さんのぶんまで長生きしていただけたらと願ってやみません。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

曽根 惠子

 

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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