こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「マスクを三枚まで購入できる」を実行できた理由

コロナ対策の重要テーマとなったマスク問題をいかに解決したか

 

新型コロナウイルス対策に関して、政府が対処しなければならない大きな問題の一つがマスクの供給でした。SARSのときの反省を踏まえて、医療関係者には独自の流通経路が確保されていましたので問題は起こりませんでしたが、一般の人々に対して「いかにして早くマスクを届けるか」が大きな課題になりました。

 

当初、政府は「コンビニエンスストアやドラッグストアで誰もがマスクを三枚まで購入できる」という政策を進めました。しかし、一人の人が複数の店舗でマスクを購入するという問題が発生しました。あるコンビニでマスクを購入した人が、隣のコンビニに行ってまたマスクを購入したとしても、店側はチェックのしようがありません。実際、この方法を始めてすぐにマスクが品切れになり、パニックが起こりそうになりました。

 

台湾でコンビニを管轄している政府機関は「経済部」(日本でいえば経済産業省)であり、マスクの製造も同様に経済部の管轄です。しかし、経済部はいくつかの部局に分かれていて、コンビニについては「商業局」や「中小企業部」「国際貿易局」などが関係し、マスク生産については「工業局」が関係するなど、それぞれ職掌が異なりました。そのため、まず、経済部内で各部門間の調整をする必要があったのです。

 

次に、どのようにマスクを各地に配送するかについてですが、これは経済部だけで対処できる問題ではありません。経済部はビジネスや取引のために存在しているのではなく、各業界や業種それぞれの立場を守るために仕事をしているわけですから。

 

また、感染症は「衛生福利部」(日本でいえば厚生労働省)の所管ですが、「マスクを疾病対策にいかに利用するか」という政策を担当するのは、その下部組織の「疾病管制署」です。さらに、薬局は同じ衛生福利部の下部にある「食品薬物管理署」、全民健康保険カード(健康保険証)は「健康保険署」の管轄です。

 

このように、マスク対策に「経済部」と「衛生福利部」という二つの部と少なくとも六つの局が関わっているのです。さらに、毎日マスクの配送を請け負う郵便局は「交通部」(日本でいえば国土交通省)の管轄で、当然ここも関わってきます。

 

このように、一つの部会では解決できない問題が生じた場合、部会間で異なる価値を調整する必要があります。こうした部会間を横断する問題をデジタル技術を使ってクリアにしていくことが、デジタル担当政務委員としての私の仕事になりました。ちなみに、現在、行政院には私を含め、九人の政治委員がいます。

 

これらの関係部局が集まって何度もマスク対策会議が開かれました。毎回各部門から上がってくる問題について議論しましたが、そのテーマは政府内から上がってくる問題だけでは済みませんでした。

 

たとえば、1922(政府が新型コロナウイルス対策の一環として設けたホットラインの番号)に、市民から「新しいアイデアを政府の指揮センターに伝えてほしい」という電話が入ってきた際に、そのアイデアについて議論をしたこともあります。また、「小学生の男の子がピンクのマスクを学校にして行ったら、友だちに笑われた」という母親の声が寄せられたときには、これにどう対処するかを話し合いました。

 

他にも、「マスクは繰り返し使ってよいのか」とか、「電熱釜で加熱すれば殺菌できる」という政府の公告に対して、「本当に水を入れずに加熱してよいのか」といった声が寄せられました。これら民間から上がってきた質問は、政府が想定していた内容をはるかに超えるものでした。

 

事態が進むにつれて、「マスクを普遍的に行き渡らせ、人々に使用してもらうことは、新型コロナウイルス対策で非常に重要な価値を持つ」という認識が政府内で共有され、私たちは民間の声も重視し、情報を寄せてくれた人たちともコミュニケーションをとるようになりました。

 

オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

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