病院の経営課題は年々深刻化する一方です。医療行政の長期的変化、診療報酬改定、高度化する医療技術への対応、収益力低下、人材不足や採用難、後継者の不在…。そんななか解決手段として注目を集めているのが「病院M&A」。ここでは病院M&Aを検討するうえで知っておくべき知識を解説します。今回のテーマは「出資持分と拠出金」。医療法人の種類によってどのような違いがあるのでしょうか? ※本連載は、矢野好臣氏、余語光氏の共著『病院M&A』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

「社員を辞めたとき、死亡したとき」のみ現金を取得

出資持分とは、定款の定めるところにより、出資額に応じて払戻しまたは残余財産の分配を受ける権利のことであり、医療法人に対して主張できる財産権です。

 

これは言い換えると、出資持分によって主張できる財産権は「払戻し」または「残余財産の分配」しかない、ということです。つまり、株式会社の株式のように配当金を受け取る権利は、出資持分にはありません。

 

では、医療法人からの「払戻し」が受けられる(出資持分の払戻請求権を行使できる)のはどのようなときかといえば、一般的には、定款に「社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる」(社団医療法人モデル定款)と定められています。つまり、原則的には、社員である出資者が退社、死亡などにより社員を辞めたときに払戻しが請求でき、それ以外では請求できません。

 

また、「残余財産の分配」は医療法人が解散するときに、残った財産を出資額に応じて分配される権利です。

 

ここで、先の「社員ではない者が出資をすることができる」という話を思い出すと、社員ではない出資者は、払戻しを請求できないのか?と思われるかもしれませんが、実はそのとおりです。社員ではない出資者は医療法人が解散されるときの「残余財産分配請求権」しか規定されていないのが一般的です。そのため、通常は出資者=社員となっています。

 

以上の説明からご理解いただけると思いますが、出資持分による財産権を行使して、実際に現金を受け取れる場面は、極めて限定されます。現実的には、社員を辞めたとき、または死亡時の払戻しだけということです。

贈与や相続、譲渡したときの「出資持分」の評価額

しかし、実際に現金化できるか否かは別として、出資持分は財産権として存在しているので、それを贈与や相続、譲渡することができます。そして、贈与や相続、譲渡する際には、それがいくらなのかという評価額が計算されます。

 

親族間での贈与や相続などの場合、税務上の出資持分の評価方法は、いわゆる「取引相場のない株式(非上場株式)」の評価方法に準じています。取引相場のない株式の評価方法にはいくつかの計算方式があり、株主構成や法人規模によって計算方式が異なるなど、非常に複雑なのでここでは割愛します。

 

ごく簡単にイメージとして述べるなら、医療法人の純資産が増えれば増えるほど、その評価額も増えることになります。

 

たとえば、病院の設立時、A、B2人の出資者がいて、それぞれ出資金額は5000万円ずつ、計1億円の出資金額だったとします。その後、20年間病院を経営して、病院の純資産が20億円に増えていたとします。その時点でAが退社して出資持分の払戻しを請求するとしたら、純資産を出資金額割合(この場合50%)に応じて按分した10億円を請求できることになります。贈与や相続の評価額もそれが基準になります(これはあくまでイメージで、税務上の評価額の計算は複雑です)。

 

一方、第三者間での譲渡取引(M&A)の場合は、価額は原則的に自由に決めることができますが、やはり払戻請求権によって請求できる金額が、目安になるでしょう。出資持分の価値は、医療法人の純資産の増加額に比例して増えていくことになります。一般的には、長い間順調に医療法人の経営を続けるほど、その純資産は増えていくため、長く経営している医療法人の出資者ほど持分の評価額は高くなっていることが普通です。

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