今、病院経営について悩みや不安を感じていない病院経営者の方は、ほとんどいないでしょう。地域医療構想など医療行政の長期的変化、診療報酬改定、医療技術の高度化への対応、足元での収益力低下、厳しさを増す人材不足・採用難、経営者自身の高齢化、そして、後継不在。これらの経営課題を解決する選択肢として、今後「病院M&A」が急増する見込みです。ここではM&Aが有効な選択肢となりうるケースを紹介します。※本連載は、矢野好臣氏、余語光氏の共著『病院M&A』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

「譲受側」の例とその目的

病院M&Aで譲受側になるのは、どんな先なのでしょうか。

 

●医療法人(医師)

 

まず全国規模で展開している医療法人グループが、病院数(病床数)を増やしてグループを拡大するために譲り受けるケースがあります。大規模医療法人グループはM&Aに慣れているため、話がスムーズに進みやすいという特徴があります。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

そこまで大きなグループではない、小規模の医療法人が規模拡大や機能補完のために他院と提携するケースもあります。

 

一般的に規模が大きいほど効率的な運営が可能なので、慢性期病床200床の病院が、近隣の同じ慢性期病床100床の病院を譲り受けて300床となることで業務の効率化を図るのが、規模拡大目的のM&Aです。

 

また、急性期病床200床の病院が患者を受け入れきれなくなっているような場合、回復期や慢性期の病床機能をもつ病院と一体になることで、スムーズな患者の流れを築き患者受入数を増やすことを図るのが機能補完です。

 

この場合、効率化や機能連携がうまくいけば、利用する地域住民にとってもメリットとなります。

 

さらに、個人で診療所を経営している医師が事業拡大のために病院を譲り受けるケースもあります。ただし、病院M&Aは金額が大きくなるためレアなケースです。

 

●医業・介護関連企業

 

次に、医療関連企業や周辺の業務を営む一般事業会社が譲受側となるケースがあります。たとえば、医療商材の卸会社や販売会社、調剤薬局やドラッグストア、また、介護事業者などです。

 

この場合は、医療における社会貢献はもちろんのこと、事業におけるバリューチェーンや商流の拡大、シナジーによる事業価値の向上などが目的になります。一般の事業会社が病院の運営を開始したい場合、M&Aでの譲受を目指します。

 

●そのほかの企業

 

医業とまったく関係のない一般事業会社が譲受側となる場合もあります。たとえば、高齢者を対象とした事業を展開して広い顧客基盤をもっている会社が、その顧客基盤を活用して医療ビジネスも行おうと考えるケースなどです。

 

●投資ファンド

 

投資ファンドとは、まとまった資金を集め、事業に投資して利益を得ることが目的の組織です。通常は、病院を長く運営することが目的ではなく、一定期間(多くは3〜5年程度)の間に事業再生などによって価値を高めて新たなオーナーへ譲渡して利益を得ることが目的となります。

 

病院への投資実績が豊富で資金力もあるファンドの場合は、経営改善ノウハウを持ち、医師などを集めるネットワークもあるため、経営不振、人材不足や後継者不在への対応も可能です。

 

利益獲得の手段として病院を転売するように聞こえますが、単に右から左へ動かして利ざやを抜くのではなく、経営を改善して収益力や医療サービスの品質を向上させ、病院の価値を高めてから、それを必要とする医療法人などに譲渡するイメージです。

 

ただし、投資ファンドにはさまざまな会社があります。医療機関が譲受側となる場合のように、明確なシナジーが見込めないことに換えて、これまでの病院の歴史や文化を残し、さらに発展させる効果を得られる場合など利点もあります。

 

ただし、原則論としては、ファンドに投資している投資家への還元も当然追及されますので、なぜそのファンドが病院を譲受けようとしているのか、その意図を事前にしっかり確認して、病院にどのような効果をもたらすかイメージしておくことは、ファンドの場合には特に大切です。

 

 

余語 光

名南M&A株式会社 事業戦略本部 医療支援部 部長

認定登録医業経営コンサルタント登録番号7795号/医療経営士

 

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余語 光

幻冬舎メディアコンサルティング

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