一般企業では既に始まっている時間外労働の上限規制が、2024年4月から医師にも適用される。勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」とされているが、その実現は困難ではないかと指摘されている。その「医師の働き方改革」を実現した医師がいる。「現場のニーズに応え、仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」という。わずか2年半で、どのように医師の5時帰宅を可能にしたのか――、その舞台裏を明らかにする。

経営者の言葉がけはスタッフをポジティブにする!

私がコーチングを勉強し始めた頃に、『エクセレント・ホスピタルーメディカルコーチングで病院が変わる』(クィント・ステューダー著、鐘江康一郎訳、発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン、2011年)という、メディカルコーチングの本を手に取りました。そこには、病院長が病棟回診でナースステーション立ち寄った時に発する、非常に印象的な言葉が紹介されていたのです。

 

それは、「今日、良かったこと、うまくいったことを教えてください。誰か、褒めてあげるべき人(医師)はいますか?」になります。

 

回診中の病院長にこうやって声をかけらたら、なんだかうれしくなりませんか。

 

自分が今日上手にできたことや、一緒に働く同僚たちがうまくいったことを探してしまいますよね。こういった励みになる言葉かげを継続的にするねらいは、スタッフの関心をネガティブなものから、ポジティブなものへと切り替えることだそうです。

 

朝礼や病棟回診などで経営者や管理職は職員を目の前にして、「今日は、これを頑張っていきましょう」とか、「昨日はこんなこと(トラブル)がありました。みなさん気をつけましょう」と、ついつい気を引き締めるような警句を発してしまいがちです。

 

それも大切なことではありますが、戒めの言葉は補佐役・参謀役に任せ、リーダーは常にスタッフ全員に向けて、「今日も一日頑張ろう!」とやる気にさせる言葉を発信し続けるのはどうでしょう。その姿勢こそが、「医師の働き方改革」の大きな求心力を生むのです。

 

「医師の働き方改革」を進める過程では、期待しているような芳しい結果が得られなかったり、成果が目に見える数や形で現れなかったりする時期もあるはずです。そんな時、現場を責めるのではなく「病院内を良くしようとしている姿勢」に対するポジティブなメッセージを発信し続けることも経営層や現場のリーダーの重要な役割です。

 

経営層・リーダーから承認してもらったり、「必要な支援はないか」と尋ねられ、気にかけてもらえているのを知るだけで、現場の士気は予想以上に大きく上がります。

 

現場で前向きな気持ちが醸成されていれば、困難な時でも現状を打破するような「次の一手」が生まれてきます。経営者やリーダーが、日々前向きな一言を発し続けることこそが「医師の働き方改革」を大きく前進させることに繋がっていくことを、改めてしっかりと認識しておくことが大切だと考えます。

 

「医師の働き方改革」のポイント
●「具体的な数字に落とし込んだ問題点」「現場の思いやニーズ」の二つを把握し、<現実にそぐわない無駄な>施策を省く
●経営者、リーダーが率先してポジティブな声掛けをして、病院内の士気を高める

 

佐藤文彦
Basical Health産業医事務所 代表

 

 

地方の病院は「医師の働き方改革」で勝ち抜ける

地方の病院は「医師の働き方改革」で勝ち抜ける

佐藤 文彦

中央経済社

すべての病院で、「医師の働き方改革」は可能だという。 著者の医師は「医師の働き方改革」を「コーチング」というコミュニケーションの手法を用いながら、部下の医師と一緒に何度もディスカッションを行い、いろいろな施策を…

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