※本連載は、片岡武氏、細井仁氏、飯野治彦氏の共著『実践調停 遺産分割事件 第2巻 改正相続法を物語で読み解く』(日本加除出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
解説:「相続させる」旨の遺言
■実務論点:「相続させる」旨の遺言
わが国の公正証書遺言作成の実務(公証実務)においては、これまで、「特定の遺産を、特定の相続人に、相続させる」旨の遺言が奨励されてきた経緯があります。それは、「特定遺贈と同様の処理をしつつ、登録免許税において相続人に有利な取扱いをする」という要因がありました。そこで、「相続させる」旨の遺言の法的意味をどのように捉えるかについて議論がなされていました。
この点につき、判例(最2小判平成3年4月19日民集45巻4号477頁、いわゆる香川判決)は、「相続させる」旨の遺言につき、遺産分割効果説を採用し、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではなく、遺産の分割の方法を定めた遺言であると解し、遺産分割手続を要することなく、当然に特定の遺産が特定の相続人に移転するとして、実務上の決着をつけました。
■ポイント:「相続させる」旨の遺言による登記
「相続」を原因とする所有権移転登記は、相続人が申請できることから、特定の遺産についての所有権移転登記は、特定の相続人が単独で申請できるものと解されます。森下書記官と稲葉書記官は、「相続させる」旨の遺言の効力と登記手続を確認しています。
<改正法Q&A>特定財産承継遺言とは?
平成3年判決(香川判決)によれば、「相続させる」旨の遺言は、遺産分割方法の指定がされたと解すべきものと遺贈と解すべきものの2つに分かれることになります。
この点につき、改正法は、遺産の分割の方法の指定として特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる旨の遺言と解すべきものにつき、「特定財産承継遺言」と定義づけました(民1014条2項)。そして、かかる遺言による財産の承継を「遺贈」とはみないものとしました。
他方で、特定の相続人に対し財産の一定割合ないし全てを取得させる趣旨の遺言は、特定財産承継遺言には当たらず、相続分の指定と扱われます(民1046条1項括弧書き)。
文言として、「相続させる」が用いられるとしても「相続分の指定」と扱われることになります。
片岡 武
千葉法律事務所 弁護士(元東京家庭裁判所部総括判事)
細井 仁
静岡家庭裁判所次席書記官
飯野 治彦
横浜家庭裁判所次席家庭裁判所調査官
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千葉法律事務所
弁護士
元東京家庭裁判所部総括判事。
1954年生まれ。千葉地方裁判所、新潟地方・家庭裁判所長岡支部、旭川地方・家庭裁判所、東京地方裁判所、青森地方・家庭裁判所八戸支部、東京家庭裁判所、札幌高等裁判所、横浜家庭裁判所での勤務を経て、東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割)部総括判事。2019年退官。
裁判官時代、家事事件の中でもとくに遺産分割事件に多く携わる。当事者の納得を得られる調停運営やウィットに富んだ講演に定評がある。2010年に『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』の刊行以来、相続分野における著作を多数刊行。
【主な著書等】
『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』編著、日本加除出版
『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』共著、日本加除出版
『改正相続法と家庭裁判所の実務』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 面会交流 ―子どもの気持ちに寄り添う調停実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載小説「実践調停 遺産分割事件」 ~ストーリーで読み解く改正相続法
静岡家庭裁判所
次席書記官
1961年生まれ。東京家庭裁判所、横浜家庭裁判所、知的財産高等裁判所等での勤務を経て、2020年現在、静岡家庭裁判所次席書記官。
書記官実務の中でも、とくに家事事件全般に多く携わった家事事件のエキスパート。『実践調停』シリーズでは主に物語部分を手がける。理論的で精緻な筆致と柔らかな感性で色彩豊かなストーリーを描く。
【主な著書等】
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載小説「実践調停 遺産分割事件」 ~ストーリーで読み解く改正相続法
横浜家庭裁判所
次席家庭裁判所調査官
1960年生まれ。東京家庭裁判所、横浜家庭裁判所、札幌家庭裁判所等での勤務を経て、2020年現在、横浜家庭裁判所次席家庭裁判所調査官。
家庭裁判所の家事事件、少年事件などの調査を行う家庭裁判所調査官の視点から、とくに、介護や特別寄与の関係を細やかに描く。当事者にとって最もよいと思われる解決方法を検討し、心理的な援助を行うプロフェッショナル。
【主な著書等】
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版
著者プロフィール詳細
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連載小説「実践調停 遺産分割事件」 ~ストーリーで読み解く改正相続法