働き盛りの長男の死にショックを受けた老父は、あとを追うように急逝。それにより相続が発生しましたが、「長男の子らに」とのメモ書きがあった収益不動産は配偶者である義母が相続。長男の子らには「私が死んだらあげる」という言葉とともに「死因贈与契約」を締結しましたが、果たしてそれで問題ないのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

もしも義母が「心変わり」したら…

とはいえ、申告手続きをした弁護士の案で、義母が亡くなったときには賃貸ビルを2人の子どもに贈与するとする死因贈与契約を締結し、公正証書として贈与予約の仮登記を設定しました。担当弁護士からは「これでまずは大丈夫です」との説明がありました。しかし、伊藤さんはその効力がどの程度なのかよく理解できず、本当にこのままにしておいていいのか、不安がぬぐえませんでした。

 

 

筆者は伊藤さんの状況から、もし義母が〈賃貸ビルは義妹に〉という遺言を作ればそれが実現してしまうこと、結局は義妹の協力がないと登記ができない状況にある、ということを説明しました。

 

伊藤さんの子どもたちに賃貸ビルを相続させるのであれば、現状のままでは不安です。子どもたちに賃貸ビルを確実に相続させるには、義母に、義父のメモに残されていた「賃貸ビルは長男の子ども2人に等分に相続させる」という内容の遺言書を作ってもらうことが必要です。また、それについての義妹の同意も得ておくことが大切になります。

 

筆者は、伊藤さんと義母、義妹、伊藤さんの2人の子どもたちと打ち合わせを設定しました。その席で、義母の相続の際には、賃貸ビルは伊藤さんの2人の子どもが相続すること、それ以外の資産はすべて義妹が相続する、という内容で合意を得ることができました。

 

義母には上記の内容をまとめた公正証書遺言を作ってもえたので、万一の際にも義妹とももめることなく、スムーズな相続手続きを行うことができます。

 

義母も義妹も、関係者全員が集まって状況を整理できたことにより、胸のつかえが下りたように見えました。

公正証書遺言の作成で、口約束を「確約」に

親子だから、きょうだいだから…といって、遺産分割にまつわる話をあいまいにしている家族は少なくありません。しかし、年数が経過すれば、各人の置かれた状況も変化しますし、それぞれが思い描く未来像が食い違ってくることは、十分予想がつくといえます。

 

伊藤さんが心配したのは、「私が死んだら賃貸ビルは長男の子どもたちに」という義母の言葉が、口約束になってしまうのではということでした。いまはなにもいわない義妹ですが、もし今後、生活に困るようなことがあれば、賃貸ビルがほしいといいだすかもしれず、そんな義妹を不憫に思った義母が遺言書を残せば、伊藤さんの子どもたちには対処の方法がありません。

 

相続の問題を先送りにしないためにも、家族間での話し合いは重要です。また、話し合った内容は公正証書遺言として残しておけば、将来揉めることもなくなります。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

曽根 惠子

 

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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