
裕福な医師の一族に起こった相続問題。事の発端は、早くに妻を亡くしたクリニック経営者の死でした。多額の資産の相続人はきょうだいでしたが、男性の姉以外はすでに鬼籍で、残る相続人は4人の甥姪です。しかし、長年にわたって親族と没交渉だった甥姪たちは、突然の伯母からの連絡に激しく反発します。相続問題を多く手掛ける菱田陽介司法書士が事例をもとに解説します。
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家庭に恵まれなかった独身の弟、献身的に介護した姉
今回ご紹介するのは、親世代の確執が、ほとんど関わりのない甥姪との間にまで影を落とした、ある富裕層の医師一族の事例です。
佐藤正勝さんは、由緒ある医師一族の長男として生まれました。子どものころから成績優秀で、周囲も本人も将来医師となることを当然と考える環境で育ってきました。母校の国立大学付属病院に勤務したのち、30代で独立。以降は地元でクリニックを経営しています。院長の傍ら、親の代から引き継いだ収益不動産の運営も行い、コツコツと着実に資産を積み上げていきました。しかし、60代の半ばに大病を患い、それから数年間治療に専念したものの回復はかなわず、入退院を繰り返したのちに介護が必要な状態となりました。
正勝さんは結婚が遅く、40歳になる前に家庭を持ちましたが、体の弱かった妻は3年後に死去。子どももなく、以降はずっと独身でした。そんな正勝さんを気にかけていたのが、2歳年上の姉の幸江さんです。
幸江さんは医大の教授だった父親に溺愛されて育ち、海外の大学を卒業後すぐに父親の部下と結婚。部下は横浜にある大病院の跡継ぎで、幸江さんはその後、院長夫人として不自由のない生活を送ってきました。
「見ず知らずのヘルパーさんに世話をされるより、気心知れた家族に頼る方が気楽でしょう。うちは子どももみんな家を出て部屋が余っているし、主人も快諾しているから、こっちにいらっしゃい」
正勝さんはこの申し出に感謝し、幸江さんのもとへ身を寄せました。その際、まとまった現金を姉に渡そうとしましたが、幸江さんは「水臭い」これを固辞。結局、正勝さんの生活費や治療費のほとんどは幸江さんが負担することになりました。
その後しばらく、幸江さんの自宅で穏やかに過ごしていた正勝さんでしたが、次第に状態が悪化し、家庭での介護が困難になりました。そこで幸江さんの計らいにより、手厚いケアが売りの施設へと入居することになりました。この施設にかかる費用の多くも、幸江さんが負担しました。
相続人は高齢の姉と、疎遠になって久しい4人の甥姪
正勝さんは施設に入所後、「ここも皆さん本当によくしてくれて快適だ。姉さんのおかげだ、ありがとう」と感謝の気持ちを伝えていましたが、残念ながら入所から半年後に容体が悪化し、亡くなりました。
幸江さんは弟の死を深く悲しみながら、葬儀を終えました。しかし、そのあとに待っていたのは相続の問題です。
前述のとおり、亡くなった正勝さんには配偶者や子はなく、両親も数十年前に他界しています。相続権はきょうだいにありますが、存命なのは姉である幸江さんだけで、正勝さんのすぐ下の次男、末っ子の次女は近年相次いで亡くなっています。次男と次女にはそれぞれ二人の子どもがいます。
じつは幸江さんは、両親の相続のときに次男・次女とトラブルになり、以来ずっと疎遠のままでした。また、甥姪にあたる次男・次女それぞれの子どもたちと最後に会ったのは、彼らがまだ小学生の頃で、以後はまったくの没交渉です。
幸江さんは遺言書を遺していない正勝さんの相続手続きを進めるため、知り合いが懇意にしている司法書士を紹介してもらうことにしました。
