本記事は、2017年6月23日刊行の書籍『人生を破滅に導く「介護破産」』を一部抜粋し、再編集したものです。その後の法改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。本来、施設の種類によって「入居」「入所」と書き分けるべきですが、文章の分かりやすさに配慮し、すべて「入所」に統一しています。

母を引き取るべきか?限られた資金で行える介護とは

父親(要介護3)と母親(要支援1)のふたり暮らし

地方の持ち家で高齢の夫婦ふたり暮らし。息子は東京在住。父親は月額14万円の年金を受給しており、要介護3。母親は要支援1で、自分のことは一通りできるものの、父親の介護までは難しくなっています。しかし、父親が施設に入所すると、その介護費用負担で、母親の生活が一気に厳しくなるという状況です。

 

この場合「① できるだけ在宅介護サービスを利用して現在の生活を維持する」「② 息子の自宅近くに引っ越してデイサービスを利用する」「③ 息子が母親を引き取り、父親は東京の施設を探す」などの選択肢がありますが、本人の要望に沿って進めていきます。

 

両親ふたりとも住み慣れた土地を離れるのを嫌がったり、自宅を売却したくないということであれば、まずは母親の負担を減らすべく介護サービスを複数利用するのがいいでしょう。月額14万円あれば、在宅介護サービスをいろいろと利用することができます。

 

① できるだけ在宅介護サービスを利用し、現在の生活を維持する

 

夫婦で今の自宅での生活を維持する場合、父親のベッドや車いすは、レンタルを利用します。普段のベッドに手すりをつけるだけで問題なく生活できる場合もあります。そしてその上で食事と入浴ができるサービスを利用します。

 

配食サービスや訪問入浴サービス(1回1387円)などもありますが、入浴や食事の提供があるデイサービスであれば、週2回でも月額1万円程度で利用できます。デイサービスは9時から17時までで送迎もあるため、父親がデイサービスを利用すれば、その間母親は父親の介護から解放され心身を休めることができます。

 

またそれ以外の日に週1回訪問看護を利用し体調管理をします。父親に認知症の症状が強く出ているようであれば、デイサービスの回数を増やします。並行して母親の家事軽減のため、週に2回ほど夫婦で配食サービスを利用するようにします。

 

また買い物が大変だという場合には、ネットスーパーを活用します。最近では多くの大手スーパーマーケットが、宅配サービスを行っています。母親が自分で注文できない場合は、子どもが母親から注文内容を定期的に聞き、代わりに注文手続きをするのもよいでしょう。2日に1回、電話やメールで注文内容を聞くことも立派な安否確認です。

 

さらに必要であれば、母親に週に1回生活援助をつけ、下ごしらえやごみ出しなどを行うようにします。ごみの内容をヘルパーが定期的に確認することで、注文した食材をきちんと食べているか把握することができます。

 

ホームヘルパーによる生活支援を週に1回から2回利用しても、自己負担額は1000〜2000円程度の追加ですみます。ヘルパーに1回の来訪で掃除と2食分をつくってもらえば、食事の支度はほとんどしなくて済むようになります。時には母親の体調を見ながら父親にショートステイを利用してもらってもよいでしょう。

 

1泊2日で1万円ほどかかりますが、月2回ほど利用することで母親の心身を休めてもらうことができます。このプランであれば、月額5万円程度の介護費負担で十分に今までの生活を維持できます。

 

[図表3]自宅にて両親だけで生活する

 

② 息子の自宅近くに引っ越してデイサービスを利用する

 

この場合、両親に、東京に住む息子の自宅近くに引っ越してもらいます。両親の自宅は売却し、両親の住居を息子宅の近くで探します。住居は高齢者向けの住宅でなくても、安価な賃貸住宅で構いません。

 

その上で父親がデイサービスを利用します。この場合、父親はデイサービスを週4回利用、訪問看護は週1回利用することにします。デイサービスの月額利用料金は1万8000円程度、デイサービスの食費が1万円程度、訪問看護と福祉用具のレンタルを含め、介護費用は月額4万5000円ほどになります。

 

家賃、光熱水費などを年金収入でまかなうことにすれば、息子が支援できる金額ではないでしょうか。それも厳しければ両親の自宅の売却費用をあてれば十分まかなえるはずです。

 

[図表4]息子の自宅近くに引っ越してデイサービスを利用

 

③ 息子が母親を引き取り、父親は東京の施設を探す

 

住宅事情などで両親ともに引き取ることは無理でも、ひとりならなんとかなる場合は、父親を施設に預け、母親と同居することを考えます。

 

この場合も両親の自宅は売却し、費用を抑えるため父親は特別養護老人ホーム(特養)へ入所します。特別養護老人ホームはユニット型の施設を選ぶと費用が高くなるため、従来型4人部屋の多床室を探すといいでしょう。とくに母親が通いやすいところを選ぶようにしてあげましょう。

 

特別養護老人ホームはすぐに入所できるとはかぎらないので、いったん両親ともに息子の家に引っ越し、その上で父親は小規模多機能型居宅介護のショートステイを利用しながら施設を探します。

 

小規模多機能型居宅介護とは、ケアマネジャー、ヘルパー、デイサービス、ショートステイのいずれも利用できるサービスです。月額料金ですべてのサービスが利用できるため、利用者側にはとても使い勝手のよいサービスですが、事業者側の負担が多く経営が難しいため、あまり普及していないのが実情です。

 

このケースのように、首都圏や地方でもある程度の大きさの都市では整備が進んでいるので、調べてみるとよいでしょう。ただし、このサービスは、同じ事業所を利用している要介護者でサービスを共有するため、利用者間の調整が必要です。そのため、必ずしも自分の希望するサービスが利用したいときにすべて利用できるわけではないことは理解しておいてください。

 

小規模多機能型居宅介護を利用すると、デイサービスや訪問介護など、ほかの事業所の介護サービスは利用できませんが、福祉用具や訪問看護は利用できます。ショートステイは条件に応じて連泊が可能ですので、その間に最適な特別養護老人ホームをしっかり選ぶことができます。いったん引っ越すといっても、父親はすぐにショートステイを利用するため、実質、同居するのは母親だけになります。

 

このケースのポイントは、まず引っ越すことで父親の居住地が息子の自宅となり、それによって、息子の家の近くの小規模多機能型居宅介護や地域密着型特別養護老人ホームが利用できるようになるということです。その後、父親が特別養護老人ホームに入所すれば、介護費用は食費や雑費を含めて月額約9万円になるので、同居した母親の生活費を含めても、年金や自宅の売却費でまかなえる計算となります。

 

[図表5]母親は息子宅で生活、父親は施設を探す

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