相続税をめぐる環境の変化に伴い、相続税調査の状況も刻々と変化しています。本記事では、遺言書がある場合の留意点について、国税OBの税理士が税務調査官の視点から詳細かつ具体的に解説します。※本記事は『税務調査官の視点からつかむ 相続税の実務と対策~誤りを未然に防ぐ税務判断と申告のポイント~』(第一法規)から抜粋・再編集したものです。

相続税の申告後に「遺留分侵害額の請求」が…

遺産の全てを相続人Aに相続させる旨の被相続人Xの自筆証書遺言が発見され、家庭裁判所の検認を経て、登記などの手続を行いましたが、他の相続人(B、C)から遺言無効や遺留分に係る訴訟が提起されたことから、Aは相続財産につき未分割であるとして相続税法第55条に基づく相続税の申告をしました。

なお、遺言により財産を取得しないB及びCは、相続税の申告をしていません。

 

【税務調査官の指摘事項】

 

自筆証書遺言の内容に基づき申告をする必要がある。

 

【解説】

 

被相続人の遺言が存在し、受遺者であるAは遺贈の放棄をしていませんから、遺言内容に沿って相続税の申告をすることとなります。その後、遺言無効の判決があった場合は、Aは更正の請求の手続(通則法23条)を行うこととなります。

 

なお、遺言により財産を取得しないB、Cについては、以下のような場合には、遺贈されていなくても申告期限までに相続税の申告をする必要があります。

 

●被相続人からの贈与について、相続時精算課税の適用を受けている

●被相続人からの贈与について、納税猶予の各種特例を受けている

●死亡保険金などのみなし相続財産を取得している

●死因贈与を受けている

など

相続税納税後に和解、遺産を再分配をしたら税金は?

被相続人は、遺産の全てを長男Aに相続させる旨の遺言書を残して、令和元年8月に亡くなりました。

長男Aは、遺言により全ての遺産を取得したとして相続税の申告をしましたが、次男Bから、遺留分が侵害されているとして、1億円の遺留分侵害額の請求がありました。

被相続人の遺産の大半は土地であったことから、長男Aは、遺留分侵害額1億円に見合う甲土地(取得価額1,000万円)を次男Bに提供することで和解し、甲土地の所有権を移転しました。

この和解に伴い、長男Aは、相続税について更正の請求を行い、相続税は減額されましたが、その他税務上の手続は行っていません。

 

【税務調査官の指摘事項】

 

長男Aは、甲土地について譲渡所得の申告を行う必要がある。

 

【解説】

 

平成30年度の民法改正により、遺留分が侵害された場合、遺留分権利者はその侵害額を請求することとなりました(令和元年7月1日相続開始分から適用されます)(民法1046条1項)。

 

ところで、本事例のように、この請求額に代えて土地などの資産を移転した場合は、移転によって免れた侵害請求額を対価として、その資産を譲渡したこととなります(所基通33─1の6)。

 

本事例の場合、長男Aは、甲土地を1億円でBに譲渡したとして、譲渡所得の申告が必要となります。

 

なお、甲土地の譲渡が相続税の申告期限から3年以内である場合は、甲土地に係る相続税は、譲渡所得の計算において取得費に算入することができます(措法39条)。

 

★実務のアドバイス★

遺留分対策として遺言で配慮すること

 

民法改正により、遺留分の請求の範囲は制限され、さらに、金銭で解決することとされたことから、遺言による遺産の承継が容易な環境となりました。

 

しかし、遺贈を受ける遺産の大半が土地や取引相場のない株式である場合は、仮に遺言で無事承継しても、遺産の現金化は困難なため、後継者(受贈者)は相続税の納税資金の捻出や遺留分侵害額の請求への対応に窮することがあります。

 

このため、先代経営者等(遺贈者)は、後継者(受遺者)がそのような事態に陥らないよう、承継させる不動産や取引相場のない株式に加えて、金融財産を多く取得させるなどの配慮が必要となります。

 

国税OB・税理士 渡邉 定義
国税OB・税理士 黒坂 昭一
国税OB・税理士 村上 晴彦
国税OB・税理士 堀内 眞之

 

 

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