相続税をめぐる環境の変化に伴い、相続税調査の状況も刻々と変化しています。本記事では、国税OBの税理士が、税務調査官の視点から指摘を受けやすい事項について詳細かつ具体的に解説します。※本記事は『税務調査官の視点からつかむ 相続税の実務と対策~誤りを未然に防ぐ税務判断と申告のポイント~』(第一法規)から抜粋・再編集したものです。

 

★実務のアドバイス★

熟慮期間の伸長と準確定申告の申告期限

 

限定承認の申述は、相続開始があったことを知った日から3か月以内ですが、この3か月の「熟慮期間」は延長が認められる場合があり、その場合、限定承認の効力が生じるとされる家庭裁判所の受理審判が相続開始から4か月経過後となることもあります。

 

このことに関して、東京高判平成15年3月10日訟務月報50巻8号2474頁は、限定承認に係るみなし譲渡所得の準確定申告の法定納期限(申告期限)は、一般の準確定申告同様「相続人が相続開始があったことを知った日の翌日から4月を経過した日の前日」として、当該法定納期限から課された延滞税を肯定しています。このため、準確定申告手続は、相続開始4か月以内をめどに進める必要があります。

公益法人等への遺贈で「想定外の税金」が発生!?

被相続人が公益法人等に資産を遺贈したために想定外の税金が発生したというケースがあります。

 

これは、限定承認に係る相続のほか、遺贈によって法人に資産が移転される場合も譲渡所得があったものとされ(所法59条)、被相続人の準確定申告でその資産に係る譲渡所得の申告をしなければならないからです。ただし、その遺贈が国又は地方公共団体である場合は、その遺贈はなかったものとみなされ所得税の課税はありません(措法40条前段)。また、公益事業を行う法人等(宗教法人も含みます)に対する遺贈で一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けた場合も同様に扱われます(措法40条後段)。

 

ところで、この措置法第40条後段の国税庁長官の承認を受けるための申請手続は、遺言者の死亡の日から4か月以内(措令25条の17第1項、租税特別措置法第40条第1項後段の規定による譲渡所得等の非課税の取扱いについて5(3))に所轄税務署長を経由して国税庁長官に提出することとなります。

 

このため、公益法人や宗教法人などに土地などの資産を遺贈する場合には、前もって(遺言を作成する前に)措置法第40条第1項後段の要件に該当するかどうかなどを検討しておく必要があります。なお、法人に対する遺贈については、原則として相続税の課税はありません(相法1条の3、1条の4)が、持分の定めのない法人などへの遺贈で、その遺贈が一定の者の相続税の負担を不当に軽減することとなる場合や特定の一般社団法人等については、その法人を個人とみなして課税されることがあります(相法66条、66条の2)。

 

国税OB・税理士 渡邉 定義
国税OB・税理士 黒坂 昭一
国税OB・税理士 村上 晴彦
国税OB・税理士 堀内 眞之

 

 

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税務調査官の視点からつかむ 相続税の実務と対策~誤りを未然に防ぐ税務判断と申告のポイント~

税務調査官の視点からつかむ 相続税の実務と対策~誤りを未然に防ぐ税務判断と申告のポイント~

渡邉 定義(編著),黒坂 昭一,村上 晴彦,堀内 眞之

第一法規

税理士が相続税の「調査の特徴」及び「税務調査官の着眼点」を理解することで、税務調査で指摘されやすい事項を念頭に置き、その実務上の留意点や対処法など、ポイントを押さえた税務判断・申告ができるようサポート(支援)す…

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